ポリーナ、私を踊るのレビュー・感想・評価
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彼女の原動力は男
3人の男が、主人公の彼女を動かす。先ず、父親は彼女から、貧困と生まれ故郷を決別させ、第二の男、フランス人は彼女をフランスに呼び寄せ、最後のベルギー人の男は、結果的彼女を再生する。と言った事だと思う。生まれ故郷の火力発電所を背景に幼少の主人公が即興でダンスを踊る場面があるが、彼女は3人の男を通して、そこへ回帰すると言うことだと思う。しかし、この主人公は、最初からバレエが好きではない。僕は最初からそう見た。何故なら、どんなダンスでも、楽しく踊っていないし、笑顔が一つもこぼれない。そして
流転する彼女の人生を
『広い視野を持つのがアーティスト』と言う言葉が擁護する。この映画は、その点を分かりやすく演出していると思った。彼女の原動力は男だけだとすぐ理解できる。面白い。
自分を表現する事
親や教師の操り人形ではイヤ。自分のダンスを踊りたい…。
ロシアから南仏、そしてアントワープへ。
模索を続けるヒロインは痛々しいけれど、どこか共感もできて。
人をお手本に型にはまったダンスを踊る日々がいやになり、前髪を切ったポリーナ。
父を喪って初めてリリア(ジュリエット・ビノシュ)の言った事が分かったポリーナが踊る最後のシーンがすごく良かった。ジェレミー・ベランガールも。
雪の林間でポリーナだけに見えたヘラジカ(?)は何だったのか。
個人的には、ポリーナのお母さんも気になります。夫が亡くなりひとりになって、これからは、もう娘に夢を託すのではなく彼女自身の人生を歩んでほしいから。
逃げてばかりの中途半端なバレエ物語
ふと、私はこの映画に何を望んでいたのか?ということを考えてしまった。もしかしたら、バレエにおけるスポ根的なドラマを勝手に期待していたのかもしれない。そういう意味では、決して期待通りの作品ではなかった。しかしそれは、作品をこき下ろす理由にはならない。ではこの映画は何を描いたか?について思いめぐらせてみるのだが、そこでも私には今ひとつ明確なヴィジョンが感じ取れない。う~む。
ポリーナは地元のバレエ教室で基礎を習い、そこからボリショイバレエスクールで古典を習い、ジュリエット・ビノシュ演じるダンサーの指導の下コンテンポラリーに触れ、その後より即興的なダンスへと形を変えながら、自分の踊りを探求していく。その上での、ポリーナ自身の成長が大きく翼を広げていく様子を描こうとしたのかもしれない、とは思う。しかし段階を経ながらポリーナが様式を違うダンスを取り入れダンスのバリエーションと表現力を足していくというその実感が、受け手として私にはあまり伝わって来なかっただけでなく、その場所やステージを変えていくきっかけも、ポリーナがそれぞれのジャンルのダンスを究め納得して次のステージへ進んでいるというよりも、それぞれの場所で納得がいかなくてまるで逃げるかのようにして場所を変えているように私の目には映った。なんというか、ポリーナにバレエへの情熱を感じ得なかったというのが、この映画に身が入らなかった大きな理由だと思う。才能が有るらしいことは伝わるし、休日も返上して練習をする様子も見えるが、ボリショイでの経験も、コンテンポラリーの経験も中途半端なまま逃げるように場所を変えて、それがポリーナにとって身になるバレエだったのか?と私はやけに冷静な気分にさせられた。
要するに、映画のヒロインとしてポリーナは少々未熟すぎるのだと思う。若くて威勢のいい未熟者の物語も悪くはないが、そんな映画はもはや飽和状態であるし、そもそもポリーナには威勢の良さも感じなければバレエへの情熱も感じにくい。彼女が物語を通じて経験することが、バレエとして身になっていく感覚も実に乏しいため、そんな彼女が到達した最後のダンスにそうそう簡単には感動などできるはずもなかった。
ダンスの映像美に引き込まれる、プレルジョカージュの自信
ダンスを通して、少女が大人に成長する過程を描いたフランス映画である。もとよりダンス芸術を語れる人間ではないけれど、そんな自分でも、ダンスによる映像美に、これほど引き込まれる満足度の高い作品はなかなかない。
幼少からクラッシックバレエの英才教育を受け、高額な授業料もその才能を信じる両親の苦労によって支えられたポリーナは、最難関のボリショイのオーディションを突破する。年頃になった彼女は、付き合っていたフランス人の彼氏の影響と、そのとき出逢ったコンテンポラリーダンスの舞台の衝撃から、新しいダンス表現へ挑戦のため、恩師と両親の期待を裏切り、ひとり旅立つ。
単純なストーリーはシロウトに分かりやすく、余計なセリフや説明は徹底的に排除されている。それは、映画をダンスシーンだけで表現しようとしているように見えるし、多くで披露される、ダンスシーンの振り付けへの自信の裏返しなのだ。
と思ったら、共同監督のアンジュラン・プレルジョカージュってメチャクチャ凄い人なのね(シロウトなもので…)。世界的に有名な振付師で、パリ・オペラ座バレエにも作品を提供しているほか、自身もクラシックバレエダンサー出身でありながら、多方面のアーティストとコラボをしている。
つまりプレルジョカージュのダンス人生そのものを、少女ポリーナに投影している部分も多い。"美しいだけではダメである。踊りに自分自身を、人生を表現しなければならない"と語られる。主人公のポリーナ役には、映画さながらのオーディション競争で、新人のアナスタシア・シェフツォワが大抜擢された。
映画の舞台も、プレルジョカージュの活動拠点である南仏のエクス=アン=プロヴァンスと、ボリショイ劇場のあるモスクワ、そして新興ダンスのクロスオーバーが起きているベルギーのアントワープという、欧州ダンスの重点都市をつなげていく。
コンテンポラリーダンスの振付師役で、名女優ジュリエット・ビノシュがダンスを見せるが、これがまた素晴らしい。演技を越えて、プロのダンサーみたいだ。
エンディングに向けてのコンテンポラリーダンスの熱量がもの凄い。とにかく吸い込まれるように魅せられる。
そしてダンスシーンは、一発勝負のオーディションから、そのまま本番舞台(おそらく成功を意味する)へ流れ込み、恩師に無言で感謝を伝える再会を彷彿とさせるカットで締めくくる。うーんステキ。
(2017/10/31/ヒューマントラストシネマ有楽町/シネスコ/字幕:古田由紀子)
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