「先の犠牲者の心配より今守るべき命・・」アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場 odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
先の犠牲者の心配より今守るべき命・・
戦争で犠牲となる民間人の悲劇は映画や報道で数多見知ってきたが本作のようにあらたまって少女の存在を描かれてしまうと心底辛い、テロも憎いし軍人の論理も分からぬわけではないが逮捕が一気に抹殺とは作戦にしては場当たり的すぎて到底同意できるものではないでしょう。
ただ、映画は愚かさを描いての問題提起がねらいなのだろうから致し方ない。
英国ノースウッドの司令部を拠点としてナイロビの地上部隊、上空のドローンを操縦する米国のネバダ基地、人物解析のハワイ基地、英国上層部たちが鳩首会議するロンドンをリアルタイムで結んでアル・シャバーブへの対テロ撲滅作戦が進行するのだから凄まじい時代です。
映画ではターゲットのテロリストは英国籍や米国籍の犯罪者の設定で自国の警察権の行使のようにもとれるように脚色はしているが度を越している、テロリストにはミサイルでの抹殺も辞さないというのは力の誇示、いわば公開処刑、見せしめ的な効果も狙っているのだろう、巻き添えになる少女の命を天秤に掛ける思い上がりにはぞっとする。
まだ先の自爆テロの犠牲者と今起こりうる犠牲者の数を比べるのは拙速、自爆テロの阻止の手だてが他にないと決めつけているでしょう。
劇中のドローンはプレデターの改良型MQ-9 リーパー、搭載ミサイルは元は対戦車攻撃用に開発されたヘルファイア、実際にアフガンやパキスタンでのタリバン暗殺に使われたが威力が大きすぎ巻き添えとなる民間人の死者は1000人を超え問題となり、CIAの要請でより小型のスコーピオンミサイルが開発されている。何も本質的な問題は手つかずに戦術のみが巧妙化するのが現実かと思うと気が滅入るばかりである。
エンドロールで本作が遺作となったアラン・リックマンさんへの追悼が出る、映画ではベンソン中将を演じていた、私生活では孫娘への人形を買う好好爺が軍務では真逆な決断を行うというダブルスタンダード、酷な役柄を課したものです。