劇場公開日 2024年11月1日

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「「赤狩り」の嵐の中、したたかに脚本を書きまくったトランボ」トランボ ハリウッドに最も嫌われた男 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「赤狩り」の嵐の中、したたかに脚本を書きまくったトランボ

2024年11月4日
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鑑賞方法:映画館

笑える

怖い

知的

この映画製作に関わった監督と俳優始め全てのスタッフの信念に脱帽!なんで日本でもっと宣伝しなかったんだろう?自分が気がつかなかっただけなのか?ハリウッドの赤狩りの実態はまるで知らなかった。投獄までされるとは!ユダヤ人は今はアメリカ合衆国が支援する大富豪というイメージだが、当時は名前でわかる、といってハリウッドでユダヤ人はユダヤ人であることをなるべく隠していたことにも驚いた。ナチがユダヤ人にありとあらゆる仮想敵イメージをベタベタと貼りまくっていたのと同様のことを戦後のアメリカ合衆国もしていたことがわかった。

シナリオライターとして抜群の才能をもった天才のトランボとその家族を軸に、アメリカ合衆国の同調圧力、常に仮想敵国を必要とする北米「愛国心」の胡散臭さが生々しく描かれていた。そのど真ん中に置かれたトランボが逆説的だが私にとって救いだった。ユーモアがあって夫としても父親としても頼もしい。妻や娘の言葉に耳を傾ける男、裏切られても友の立場を理解する男、仕事でいっぱいいっぱいで逆ギレもする男。世界や状況や人間そのものをよく見つめ観察し自由に頭の中でしなやかに考える人だから、あんなに素晴らしいセリフや気持ちを描くことができたんだろう。

トランボの妻が素敵だった。家族の写真をカメラで撮って現像もする。楽しいピクニックでジャグリングしたり、パンチングボールをこっそり出して「こうやるのよ!」と娘のニキに伝授、誰を考えてか、は聞かれても言わない!そんな妻=ママをお前は一日一回は笑わせるんだよと息子に頼んでトランボは刑務所に向かう。インテリで理知的な妻。時代が異なっていたら主婦ではないだろう。

JFK辺りから潮目が変わり、「ローマの休日」も「黒い牡牛」も実作者であるトランボの名前で改めてアカデミー賞が授与される。トランボにとって賞なんてどうでもいいだろう、自分の名前が自分の手許に戻った、それに一番ほっとしたと思う。合衆国政府の圧力に屈したハリウッドの歴史が、リベラルなハリウッドというイメージを作りそれが#Me Tooの流れに繋がったのだろうか。映画「オッペンハイマー」における赤狩り、共産党員だったか否かをしつこく聞く公聴会を思い出した。赤狩りはハリウッドだけではない、北米全部に吹き荒れた北米の嫌らしさ全開の嫌な空気だ。その北米の言いなりになっている国に居るのは誰?絶望的になる。

おまけ
カーク・ダグラス役がダグラス本人よりかっこよかった気がする!ダニエル・クレイグ的雰囲気があってブルーの目が美しかった。

talisman
さんのコメント
2024年11月5日

コメントありがとうございます。

完
Gustavさんのコメント
2024年11月4日

アメリカ社会は元々移民国家故の決め事と縛りがあって、映画でも時代と社会が大きく影響しますね。社会がどう変化するのか敏感です。対してヨーロッパの映画は、民族の対立と差別の長い歴史の上で個人主義を貫く人間ドラマが多い。それでも近年は爆発的な移民による社会不安が頻発しています。私は1977年のシモーヌ・シニョレ主演の「これからの人生」を観て、将来移民問題がもっと顕在化すると予想しました。この題材は、(未見ですが)2020年にソフィア・ローレンで再映画化しました。
現在はグローバリズムとマンモニズム(拝金主義)が政治の主導権を握っていると思われます。ただ単一民族の日本では全てを受け入れ要ることは難しい。日本の良さが消えますね。中学生の時、歴史の授業にて先生が江戸時代の鎖国を全否定したことに対し、私一人で反論したことがあります。鎖国によって近代化が遅れたけれど、鎖国があったからこそ日本独自の文化が花開いたとも言えると意見を述べました。洋画と邦画を見比べて、日本文化や日本人の民度は西洋に劣っていないと何となく感じていたからです。その後、溝口、小津、黒澤、木下などの映画作品で意を強く持ちました。今に思えば戦後自虐思想の影響を受けた教育だったのではと考えます。政治とは、教育そのものですね。
いつの時代も表現者は、少なからず政治の影響を受けます。映画を観て政治的背景を知ることが、私なりの勉強法でした。

Gustav
ゆ~きちさんのコメント
2024年11月4日

正直、talismanさんのレビューを読んでようやく思い出せました。レビューを書いておくのは大切ですね。最近新作作品のペースが早くて参ります😭…

ゆ~きち
Gustavさんのコメント
2024年11月4日

talismanさん、共感ありがとうございます。
私が赤狩りを知ったのは高校生の時に観た「追憶」(1973年)からで、当時の解説にはタブー視されていた赤狩りが扱われているとありました。脚本家トランボを知ったのも「ジョニーは戦場へ行った」からで、この作品で初めて弾圧の内情を知り、戦後アメリカ政治の混迷に映画人が苦しめられた歴史について考えるようになりました。赤狩りに賛同した映画人ではサイレントからの巨匠セシル・B・デミルが有名です。ジョン・フォードがある会議でデミルを諫めたエピソードがあり、映画界を二分するくらいの事件でした。この作品には、戦後の冷戦時代の共産主義に対する恐怖から極端な政策に至り、共産主義ではない人まで実害を受けた反省が丁寧に描かれていて興味深く観れました。
現在のハリウッドも政治的な影響を多分に受けていますね。時代背景として扱われる程度ならいいのですが、政治思想が人間ドラマより前面に出てくるのは個人的に苦手ですね。トランボの脚本には幅広いジャンルに及ぶ多才さが窺われ、家族愛に溢れた父親の純粋に執筆に精魂込める作家だったことに、とても好感を持ちました。

Gustav