「母親とジャックの対比」ルーム つつつさんの映画レビュー(感想・評価)
母親とジャックの対比
広がった世界を17歳まで生きた上で閉じた部屋に隔離された母親。閉じた部屋がまさに広い世界だったジャック。母親は部屋で送った人生を否定し、自身の中で失った時間と捉える(または部屋の中ではジャックの存在だけが世界だった)。ジャックにとっては部屋で送った人生も世界の中での人生であり自身の一部である。
部屋の外に出たとき、母親とジャックのそれぞれがそれぞれにとってのギャップに当惑する。母親にとっては元々生きた世界と今の世界とのギャップに、ジャックにとっては部屋としての世界と外界とのギャップに。部屋ないしは世界の捉え方が違うのだから、2人は構造的にすれ違う。
母親は世界のギャップ(部屋での失われた時間に原因を見出だし周りに反発する)や、部屋の中で世界だったジャックと自分とのギャップを受け止めきれず、自殺未遂をする。一方でジャックは、当惑しつつも、子どもならではの吸収・強さや周囲とのインタラクトをとおして徐々に変化していく。すなわち、当初は薄くバターを伸ばしたように感じられた世界(入れ物が大きくコンテンツに溢れているだけで部屋と本質的な差がなかった世界)が、中身のあるものへと色づいていく。
ジャックが髪を切り母親に送るという行為は、部屋時代に2人の間にあったおまじないという意味と、その部屋時代からの踏み出しという二律背反的な二面性がある。この二面性があるからこそ、母親は部屋でのジャックとの生活を自分とジャックにとっての一部として受け止められるようになり、その延長としての今の世界を捉えられるようになる。
受け止められるようになった母親は、今ある世界を生きているジャックの提案に迷いながらも乗り、2人で部屋を訪れる。部屋にはもうあの頃の広がりはなく、ドアだけが開け放たれていた。2人にとって、部屋の世界(人生)は過去のものとなったのだ。2人は部屋にさようならをして、これからの人生を開いていく。
子どもの強さと親との繋がりが、2人を未来へと歩かせる。
2人に焦点があてられた物語の中で、その対比が著しくて面白かった。そして子役の演技力が、無垢な側面と強さを引き出していている。
