「『「世界」を知ること』を知る」ルーム 1799さんの映画レビュー(感想・評価)
『「世界」を知ること』を知る
7年間監禁された母親と、そこで生まれた5歳の男の子の監禁生活・脱出とその後を描いた物語です。
とにかくジャックが食べちゃいたいくらい可愛い。生まれてから5年間納屋の中で育った彼は、当然外の世界を知らず、髪の毛も伸び放題。でも、とても素直な子で「部屋」の中がすべてかのように教えられてきました。
ジャックはずっとこの生活が続くと思っていますが、5歳になってジャックが大きくなったことを機に、母親は脱出を決意します。
もちろん、ジャックは脱出することにすぐ納得するわけではありません。そのあたりの母親の切実な願いとジャックの素直さがぶつかるシーンは、何とも心苦しかったです。
ただ、母親が「ぬけがら」になったことをきっかけにジャックの心情に変化が現れます。
そしてついに訪れる、初めて外に出た瞬間。ジャックが初めて「世界」を知る瞬間。目に映るものが未知のもので戸惑いつつ、しっかりと母親が言った通りに勇気を振り絞って助けを求めようとするシーンは胸が締め付けられました。
無事に母親と共に本当の「世界」へ戻ってきたのもつかの間、時が過ぎてきたことや今まで閉ざされた空間で生活していたことによる歪みが生じます。
母親の周りも時を経て環境が変わってるし、ジャックにとっては階段を上り下りするのも初めてのこと。母親以外の人とはうまくコミュニケーションも取れません。
また、事実としては犯人の子供であるジャックを、母親の父親(祖父)は簡単に受け入れません。テレビのインタビューでも「生まれた瞬間に病院に預ける方が子供は幸せだったのでは?」と聞かれた母親は、精神的にまいってしまいます。
脱出できたとしても、元の世界での生活に順応する大変さ。「部屋」しか「世界」を知らないジャックの成長は、悲しくもあり切なくもありました。
母親と2人きりで過ごした「部屋」は、ジャックが生まれてから5年間生活した大切な場所です。「へや」の思い出を語るジャックに対する周りの大人たちの何とも言えない視線や返答が、また考えさせられました。
最後はどうなるかと思いましたが、「おはよう」から始まった「部屋」に「さようなら」して、2人の新たな道が拓けたようでホッとしました。
映画の中の話が実在したものに思えるくらい、母親とジャックの演技は、まさに「本物」。壮大なストーリーや派手なアクションはありませんが、心に残る一本だと思います。