「「いろんな人たちがいろんな形で閉じ込められている」※原作を読むと本作の凄さが更に分かる!」ルーム さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
「いろんな人たちがいろんな形で閉じ込められている」※原作を読むと本作の凄さが更に分かる!
かなり前に観て、公開前に投稿しようと思ってたのですが、色々と悩むこともあり遅くなってしまいました。
悩んだことは、"原作を読むことをオススメするか、しないか"です。
でも、原作を読むと、「この映画がどれだけ優れているか更に分かる」という結論に達したので、お話しにきました!
原作は5歳の男の子ジャックの一人称、口語調で書かれています。
一人称のメリットは、ジャックの心理描写がしやすく、そうなると読者を感情移入させるのも容易くなります。読者は、このジャックを凄く近くに感じる筈です。
その反面、ジャックが知らないことは書きようがない。つまり、ジャックが存在しない場面は分からない、全ての登場人物はジャックのフィルターを通すので、5歳では推し量ることができない複雑な状況は書けない。といった難しさがあります。
本作は5歳の少ない語彙力(母親と常に接していたので通常の5歳より言語能力が発達している設定ですが)で、文法の間違いや、言葉の取り違いなどしながらも、いかに読者に状況を理解させるか、想起させるかといった点で、凄くよくできています。素晴らしいです。
しかし、それ以外の登場人物、特にジョンの母親ジョイ、その母ナンシー、父ロバート、ナンシーの再婚相手のレオの心理描写が(5歳から見た大人のため)悪く言えば短絡的になってしまう。"部屋"で生まれたジャックが、"部屋"から出て色んなものを知って行く過程も、5歳の語彙力ではどうしても表現が単一的になってしまいがちです。
しかし映画では、脱出して直ぐ、監禁されていた部屋で見上げていた天窓サイズの空が急に広がり、目を見張るジャックの姿。狭い部屋で母親の姿だけを追っていた視線が、それ以外の人や物に移り、視界が、ジャックの世界が広がる様を、ジャックに代わって映像が雄弁に語ってくれるのです。
また、ジャックが推し量ることができなかった、他の登場人物達の微妙な心の機微を、手練れの俳優さん達が見せてくれます。
"部屋で生まれた"ジャック。
"部屋に連れてこられ"脱出した後でも心はずっと部屋に閉じ籠もったままのジョイ。
母親ジョイの視点が加わることで、より親子の絆が強調されるラスト。
ジョイを演じたブリー・ラーソン。2015年マイベストの「ショート・ターム」で主演を演じてました。応援してます!
本作でも、被害者の顔と、息子に向ける母親の顔、見事に演じてました。
勿論、ジャック役のジェイコブ・トレンブレイくんも凄いです。
"自然体の子供"という演技をちゃんとしています。
が、私は、ジョイの母親ナンシー役のジョアン・アレンがより印象に残りました。
娘との再会を喜びつつ、監禁されていた7年間を思いやりつつ、やや神経質に接しながら、でも母になっていた娘に、同じ母として時に厳しいこともついつい言っちゃう。分かります。
ジャックとジョイ。
ジョイとナンシー。
また、監禁前のジョイを知る父ロバート(ウィリアム・H・メイシー)と、知らない継父レオの対比。
2人の母親と2人の父親の視点が加わることで、よりエモーショナルな作品になっています。
5歳一人称の小説で描くのは、ちょっと難しかったところです。
小説は文字が持つ力(良さ)を最大限に発揮し、映画は映像表現の良さを最大限に発揮している点で、双方ともに素晴らしいです!
ぜひぜひ、両作を、読み、見比べて頂きたいと思いました。
レニー・アブラハムソンは、大好きな『FRANK フランク(2014)』の監督さんです。
FRANKでは、マイケル・ファスペンダーがでっかい張りぼてを被り、目に開けられた穴から外を見ていました。本作では狭い部屋に監禁された2人が、天窓から外(空)を覗いていましたね。
2作共に特殊な設定ではありますが、他者との境界線を生む経験をした人たちが、心の傷と向き合い、閉じ込められた過去の苦しみから解放される、再生と、親子の絆という、普遍的なテーマが根底にあるように思いました。
あのラストの儀式を観て、やはりどんなに優しい人達に囲まれようと、自分でドアを開けなくちゃいけないんだ。自分自身なんだ!
という、ジャックからの強いメッセージを受け取りました。
※タイトル:原作でジョイがインタビューに答えた台詞です。