レッドタートル ある島の物語のレビュー・感想・評価
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唯一無二の表現の豊かさよ
短編「岸辺のふたり」があまりにも感動的だったので、長編になるとどんなすごいことにならのかという短絡的な考えはいい意味で裏切られた。
短編な尺である親子の人生を描ききってしまった「岸辺のふたり」から、とんでもない飛躍を遂げているわけではない。むしろ舞台は大きく広がっても、物語のサイズは変わっていない。
ただ、一瞬一瞬の描写の緻密さと繊細さ、それでいて大胆な挑戦の数々に魅了されるばかり。
無人島で形成されるシュールな家族の物語を深く解釈しようとは思わない。ただ、目の前に展開するひとの、自然の、そしてカメの営みを見つめているだけで、なんとも贅沢な時間を味わうことができるのだ。
ジブリ製作とはいえ実作業はヨーロッパで行われたようだが、「ポニョ以降」を感じさせる波の表現だけでも、ジブリの功績を推し進めた継承者として激賞されるに価すると思う。
優しくあったかく、悲しいけど幸せ。
カニは友だち
島でのサバイバル生活を過ごすのかと思ったら、いきなりイカダによる脱出劇。しかし、船底に何かがぶつかり、イカダはバラバラ。さらに大きなイカダを作り・・・と3度繰り返すも、赤いウミガメのおかげで砂浜に引き戻されるのだった。ある時、陸に上がったウミガメを恨みを込めて殺してしまう男。しかし、罪の意識に苛まれ、生き返らせようとするも手遅れ・・・その後、甲羅が割れ、そこには人間の女が一人倒れていた。
色んな解釈ができそうな物語。細かく繊細な手描きタッチには優しさも感じられるが、人間の奥底にある憎悪も潜んでいる。序盤ではウミガメが産卵した砂浜から子亀がよちよちと海に向かっていく光景をじっと見ていた男。彼はカニも取って食おうとはしない。漂着したアザラシ(?)はちょっとだけ食おうと試みた。
全ては男の妄想か?赤ウミガメは神の使いか何かで、男に子孫を残そうとする本能に応えたのか?どちらにしても幸せな一生を送ったに違いない男。しかし、赤ウミガメを殺した罪と贖罪については物語は答えてくれない。
浦島太郎だったら、鶴の恩返しだったら、手塚治虫の「火の鳥」だったら?日本人の感覚からすれば、カメを助けなければこうした幸福感は得られないはず。もしや、ひとつの罪のために、カメとの異類婚姻譚で子孫を儲けるものの子どもを旅立たせてしまうといった罰なのか。それとも本当にウミガメ女が男に恋しただけ?などなど、頭を混乱させる内容でした。でも最後はちょっと悲しい。
商業的成功は無くとも
現したいものを作り、表現する事自体に意味を感じる作品。
ジブリ絡みのような表現もあり、誤解を受ける事もあるだろうが、今のジブリが実験的機会でもない限り作らないタイプの作品である。
物語はセリフらしいセリフはなく、冒頭から遭難した男の短絡的な行動を見せられる。
漂着した島で飲み水、食い物を探し筏を作り島を出ようと画策するが海中からアカウミガメの攻撃で筏を壊され続ける。
しかし陸に上がってきたアカウミガメを発見した男はアカウミガメを殺してしまう。
カメを殺した事に苛まれながら、カメに寄り添う男。
そして衝撃の展開!カメが女になっていた。
カメ女は自らの甲羅を海に流し、島に住む姿を見せた為、男も筏を海に流し島でカメ女と一緒に暮らすようになる。
だが浦島太郎とは逆なのでエライ心配になる。
この時点で想像力を喚起させながら観ることを余儀無くされ、突如幼児が現れるので「お?おお!」となり、新しいおとぎ話を見せられている気分になった。
子どもに見せたらどんな反応をするのか?興味深い。ただ反応を見るだけでも面白いが、この作品のナレーションは横に座った親がすれば絵本を読んでいるようなものではないか?
絵本1つ読んでもその家の親が読んだ雰囲気で違うと思う。
話は反れたが親子三人暮らせるだけのモノがあるのだろう…子どもはスクスク成長した頃に突如海が引き津波によって流される。
助かった後の後片付けを見ていると作品とは関係ない事を思い出すのは日本人だからだろうか?
成長した息子が他のカメと共に島を旅立ち、男が眠るように寿命を迎えた時にカメ女は寄り添い、アカウミガメなり海へ帰っていく。
色々な解釈が各々にありそうな作品ではあるが、始まれば黙って観てしまう力がある作品ではある。
「なんだこれは?」と感想を言い合うのも良し、
しんみりと浸るのも良し…といったところか?
自然の猛威が美しい
ひたすら静か
異種婚姻譚の傑作
涙があふれて止まらなかった。
男は亀のせいで島から出られず、人生が大きく変わったのかもしれないが、亀(女)の愛を受け入れて、生きていく。
世界中に伝わる異種婚姻譚の寓話そのままで、話はありきたりではあるけれど、シンプル故に哲学的でもあり、命の営みや幸せとはを考えずにいられない。
砂浜の蟹、嵐、打ち寄せる波、絵が美しく儚く、ずっとこの世界に浸っていたかった。
子供が島を離れ、老い、女を看取った後に男に去来する思いとは。
人間は考える生き物だから、ついこの男の人生とは、などと意味を考えたがるが、では高度な頭脳がない動植物の存在は意味がないのか、と問われればそれを人間が判断すること自体が無意味だと思う。
男も亀も命の循環の一つにしかすぎず、男はあのまま死に、朽ちていき、島の一部となる。世界の片隅で愛し合った一つの命が終わる。不思議な幸福感と切なさでじわじわ胸を浸していく。
無声だからこそ、より伝わるものがありました。
レビュー
ジブリと思わずに見てください
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