「脚本が進化した新海監督の大出世作」君の名は。 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
脚本が進化した新海監督の大出世作
総合:80点 ( ストーリー:65点|キャスト:75点|演出:80点|ビジュアル:85点|音楽:75点 )
冒頭から相変わらずの美しい映像で始まり、詩的な少年少女の声が静かに感情を表す。この辺りは新海誠監督の過去作品と同様で上手い。その後暫くは思ったよりも軽い調子で話が進むが、途中で一気に大きな展開を迎えてからは、緊迫感の中にただ切なさが募る。大きな出来事があってからどうなったのかがわからないまま、主人公と共に取り残された気持ちになり不安と悲しさと孤独がある。
そして結末。長いこと会えることが無かった2人がすれ違うこのあたりの場面は『秒速5センチメートル』とよく似ているが、結果はこちらのほうがはっきりとしているし、それまでの長くて大きな展開を受けてすっきりと終らせている。音楽も良かった。
今回の脚本は過去の作品よりもかなり進化していて、色々な伏線を張っておきながらそれらを綺麗に回収していき、上手くまとめて終わらせていた。美しい映像と人の切ない心理描写を描かせたら天下一品の能力を見せる新海監督の最大の欠点は、はっきりとしない設定と物語の展開だと思っていて過去作品はそれを気にしながら観ていたのだが、今回の脚本は最高ではないけれど合格点をつけられる。
そうはいっても突っ込みどころは多い。
・人が入れ替わっていても家族のことはわかっている等、記憶がある程度は残っていておかしいなりに普通に学校生活が出来る
・地球のすぐそばを通過する彗星があるならば天文学者がその危険性を軽視するはずがない
・過疎が進んで高齢者ばかりいるであろう山村で短時間で多数を避難させるのは不可能
・町を消滅させるほどの隕石がきたならば核爆発を上回る凄まじい破壊によって周囲数キロは壊滅するし、学校に逃げたくらいでは助からない
・同級生を説得し村民を避難させる高校生の作戦が短時間で都合よくいきすぎ
でも今回はわけがわからないまま話が進んできたことの多い過去の新海作品よりも、とりあえず何が起きているのかがわかっているしあまり気にならなかった。
さて個人的には細田守、今敏、新海誠の3人が、宮崎駿の後の21世紀の日本アニメ映画界を背負える器の監督だと思っていた。細田守は元々知名度も評価も高く、今敏は残念ながら早世した中で、それまで長いことあまり注目されることの少なかった新海誠がこの作品で大きく評価されたことは喜ばしい。これで次回作は豊富な資金で自由に制作が出来るだろうし、海外でもさらに評価される監督になることを期待している。ただし脚本はまだ弱いのでもっと質を高めてほしい。
ところでアリゾナ州にバリンジャー隕石孔という直径1.2キロの隕石衝突跡のクレーターがあって観光に行ったことがある。ウイキペディアによると、「衝突地点から半径3キロメートルから4キロメートル以内の生物は、衝突と同時に死滅した。半径14-22キロを吹き飛ばし何もない荒野に変えた」とある。その跡を見るだけで隕石の破壊力の凄さがよくわかる。