「death fell from the sky」君の名は。 okarikiさんの映画レビュー(感想・評価)
death fell from the sky
●都会に住む男子高校生と田舎に住む女子高生の奇妙な入れ替わりを軸とした忘却の物語。2013年公開の『言の葉の庭』に次ぐ新海誠の劇場6作目(2016)。主人公の声に、神木隆之介と上白石萌音。脇役を長澤まさみ、市原悦子といった実力派女優が演じている。
●物語の中心は、現代の東京と田舎。流行などの言葉から隔絶された村の女子高生と東京の男子高校生を結ぶのは、時間を超える「紐」。ふたりがそれぞれをつなぐ「紐」の存在に気付いた時、男子高校生のなかに、忘却していた体験が思い起こされる。
●新海作品のなかでは異色とでも言うべき、本作。過去に原作小説が発刊されている『秒速五センチメートル』や『言の葉の庭』に比べれば、小説のテンポが悪いのだ。もちろん読み通せば、映画の内容が過不足なく書かれていると思われる。しかしながら、他の小説作品にあるような映画との一体感が欠けているように感じられた。それは、おそらくこの映画の持っているリズムが新海自身のテンポというよりも、むしろRADWIMPSの音楽によっているところが大きいからだろう。その意味で、RADWIMPSの音楽なしでは、二時間に収まらない映画だったといえる。
●2016年度に空前の大ヒットを記録した本作は、大衆の感動を動員したということで極めて皮肉めいた可能性を提示している。それは、忘却の可能性だ。都会から隔絶されてポリティクスのない場所での悲劇。500人という犠牲者を忘れる社会は、年々忘れられていく御巣鷹の悲劇のようである。赤々と燃える山は見えどもたどり着かなかった、あの夏。そして、そんなことはなかったかのように大きな事件としての東日本を想起する人々。この作品は、まさに忘れゆく男子高校生にこの映画に動員された観客を重ねているかのようである。
●単純には評価できない複雑な問題をはらんでいるからこそ、本作は観られるべき映画であると同時に、観られるべきではない映画なのかもしれない。