「“偽の神”を掘り下げて欲しかった」X-MEN:アポカリプス SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
“偽の神”を掘り下げて欲しかった
映像はこれまでのシリーズどおり素晴らしいのだけど、ストーリーはややイマイチ。
三作目でラストなのだから、敵は最強最悪といえるくらいのスゴイやつを出して欲しかった。カリスマ性も能力もちょっとパッとしない。
今回の敵の設定は、古代エジプトの神。これまで、ミュータントは20世紀になってから現れたと考えられていたが、実は最古のミュータントは数千年前からいて、その力で神としてあがめられていた。また、肉体を移動することで、永遠の命を得、それだけでなく複数の能力を集約して持っているというチートぶり。
設定だけ聞くととても面白そう。
太古のミュータントということで、ミュータントたちのルーツに言及するも良し、人類の進化に関わるような、プロメテウス的な存在であることを匂わせるも良し、現代の倫理観を超越した達観ぶりを見せつけるも良し。
実際、チラっとだけ、人類に文明を与えたのは私だ、的なことを言うシーンもある。
冒頭だけは、映像の素晴らしさもあって、その辺のスケール感が出ていた。
しかし、この敵のカリスマ性や王っぷり、圧倒的神的パワーは最後まで感じられず、印象として小物の悪役の域を超えることがなかった。
巨大ピラミッドを造っていくシーンがそれを表現しているのだろうということは分かるのだけど、X-MENの世界が能力のインフレを起こしてて、何がすごくて何がすごくないのか、ちょっと分かりにくい…。
ラスボスとしてあまりにキャラが弱い。ありきたりだし、うすい。名前が思い出せないくらい印象が弱い。何がしたいかもよくわからないし、どういう能力なのかもはっきりしない。なんで倒されたかもよく分からない(ジーンの潜在能力が解放されたから倒せました、って、安易すぎない?)。
敵の思想、「弱い奴が支配するシステムになってるのはおかしい、優れた存在が劣った存在を支配するべき」って、もうそれマグニートーがこれまで散々言ってきたやつ。
数千年前から蘇った神が同じこと言ってどうするの? って思った。肉体乗移りながら永遠に近い年月生きてきたものだったら、何か現代人の考え方を超越した風格や思想があるんではないかとも思うけど、そういう風には見えなかった。
強大な敵が蘇り、仲間集めをする、という展開は王道なんだけど、ここでは普通、敵のカリスマぶりやリーダーとしての器の大きさを見せる展開じゃないと意味がない。
マグニートー以外は、単に能力パワーアップしてくれたから仲間になったみたいな感じだし、マグニートーのときも、単に気が合ったから、以上の動機が無い。最終的にマグニートーが離反するのであれば、ラスボスとマグニートーとの思想の違いを伏線として出すのは重要なのに。
作中に出てきた「偽の神」というとこをもっと掘り下げて欲しかった。現代の倫理観ていうのは、人権だとか平等だとか自由だとか、そういうものだけど、全部、せいぜい数百年の間にできてきた考え方だ。
古代エジプトの神だか王だかだったら、それらの現代的価値観の矛盾や嘘を鋭く突いて、彼は彼で現代的価値観を超越した正義としか呼べない存在である、とした方が良かったと思う。
その上で、「神」とは何か?という部分がテーマになるようなストーリーだったら、今に生きるX-MENたちが、チャールズの立場からであろうと、マグニートーからの立場であろうと、ラスボスに対して「否」、と言うことの意味が出てきたはず。
それは観客である僕らにも関係してくる。古代の神話的価値観や圧倒的支配者の存在する世界で生きるのが幸せなのか、現代の人間中心の不安定な世界で生きるのが幸せなのか。
ラスボスの設定自体は魅力的なのに、それがストーリーに反映しにくかった要因として、たくさんの個性的なキャラたちの見せ場作るのでいっぱいいっぱいになってるのでは? という気もした。
今回のストーリーは、単にキャラが活躍するためのお膳立てとして存在してるだけのように見えてしまう(今回だけに限らない傾向ではあるが)。
キャラものってのはそういうものなのかもしれないけど、ちゃんと戦うことの説得力や本物の心の葛藤があってこそ、キャラが立つというものだと思う。