「あの軽さに描かれたリアル」日本で一番悪い奴ら Black Seaさんの映画レビュー(感想・評価)
あの軽さに描かれたリアル
綾野剛さんの演技は、いつもなり切り感が半端ない。
この作品でも、不器用にまっすぐな熱血漢、ギラギラした闘争心、
やりきれない焦燥感、覇気を失った哀れな中年男・・・。
それらをわずかな撮影期間に演じ分けていると思えない程、
実に上手くみせてくれていました。
実際、この役に為に体重を10kgも増減して挑んだのだそう。
どんな作品にも全力で挑む姿勢が素晴らしい役者さんです。
パキスタン人の植野さんの役も良い味を出していました。
「ソウ、コレ、トウナンシャー!」
「ソウ、ミツリョー!ミツリョー!」
刑事に対して、犯罪を悪びれる事なくあっけらかんと
言ってのけるシーン、思わず笑ってしまいました。
芸人さんでも木下さんの方は、確かにドスは効いていたけど、
裏社会で生きてきた重みや影がイマイチ感じられなかったかな。
そんな空気まで演じてしまう役者さん達って本当にすごいんだな、
と逆に感心してしまいました。
この映画は監督さん曰く、もっと陰湿に暗くシリアスな仕上がりに
しようと思えば出来たが、あえてそうはしなかったのだそうです。
確かに、あの渦中を生きていた人達にとって、ノルマ達成する事が、
道警の為=社会の為であり、その為の不正もすなわち正義。
そんな認識が当たり前で、それがいかに日常だったかは、
劇中の写真ショットのシーンでも伝わてきました。
手錠をして銃を持って警察署の前で記念写真。
情報提供者のチンピラの結婚式に道警の上層も出席。
実際にそのような写真が、実に軽いノリで撮られていた。
今では考えられないような事が、信じられない理屈で
堂々と繰り広げられていた現実。
実際のところ、現場にそんなシリアスな空気など
漂ってはいなかったのだと思います。
そんなリアルをこの映画は実に良く演出していたのではないでしょうか。
上司の首吊り自殺、Sの拘置所内での自殺、この二つの死も
あえて深く触れなかったことに、その意図を感じさせられました。
Sは口に片方の靴下をつめ・・・という描写まで事実に沿わしていましたね。
自ら出頭し法廷で重大な証言を控えたSの「自殺」の真相が
明らかになることは永久に無い・・・
その深い深い「闇」を、私はあのシーンに見たような気がします。
いやー、それにしてもこの映画は余韻が長びきそうです。
闇があまりに深すぎて、人間の欲深さと生々しさが頭のあちこちにこびりついて、
窓の外の青空まで霞んで見えてきそうな、威力がありました。
映画の出来としては素晴らしい、
だが素晴らしい気持ちでいたい時には避けた方が良い、
そんな完成度の高い映画だったと思います。