「悪い葉が枯れても悪い根は枯れない」日本で一番悪い奴ら 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
悪い葉が枯れても悪い根は枯れない
実際に起こった警察の不祥事がベースという本作だが、
超強烈! 笑えるんだけど笑えないシーンやら
笑っちゃいけないけど笑ってしまうシーンやら、
ブラックユーモアと風刺だらけの怒濤の135分。
全編に渡って苦笑いが止まらない映画でした。
白石監督の前作『凶悪』と同じく、今時こんなに
アブない全国系邦画なんてなかなかお目にかかれない。
『汚い描写も痛い描写もエロい描写も差別発言も
タバコ吸うシーンも教育に悪いからNO!』 と
規制だらけのメディアが溢れる昨今において、
なんと言いますか逆に清々しいほどのこの“無殺菌”感。
レンタル店で7,80年代の映画でも探さなきゃ、
今日びこんな野放図な映画って観られないと思う。
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立役者は主人公・諸星の24年間を演じ切った綾野剛!
まさかここまでブッ飛んだ演技を見せる方とは思わなんだ。
真面目で志の高そうな感じの好青年だった彼が、
最初の30分で「昔はあんなにいい子だったのに……」
と嘆きたくなるほどの激ワルお巡りさんに変貌。
てか、ギラギラのシャツを着て風を切って歩く姿は
全然お巡りさんに見えませんよ。どこの組の方でしょうか。
ナメられたら終わりとばかりに虚勢を張りまくり、
立場が悪くなると開き直って逆ギレ全開。
「みんなは悪いコトしたことないんですかッッ」
の名ゼリフには声を上げて笑いそうになった。
コワモテなピエール瀧や中村獅童も良かったが、
意外なキャストが驚きの活躍を見せたのが印象的。
YOUNG DAISという方はミュージシャンだそうだが、
彼が演じたタローは、最初と最後の印象がまるきり
異なる。少しヌケてるが純粋に諸星を慕う彼の目が、
だんだんと落ち着き暗く沈んでいく様は哀しかった。
登場人物の中で一番悲惨だった男は彼だが、女優陣で
一番悲惨な役を体当たりでこなした矢吹春菜も偉い。
ダメな男を好きになったばっかりに、可哀想にね。
お笑い芸人の植野行雄演じるラシードも、ユーモラス
なのにキレると怖い、一触即発な空気が凄かった。
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銃器取り締まりで手柄をあげようとするあまり、
裏金でヤクザから銃を買うわ麻薬に目をつぶるわ、
果ては麻薬売買にまで手を染めていく諸星たち。
そりゃ銃器の取り締まりは大事だけど、
日本じゃ銃なんて誰でも振り回せる訳じゃなし、
「公共の安全を守る」という意味ではクスリの方が
被害も広範囲だし根強いしでよっぽどタチが悪い気も。
だが諸星は、手柄をあげる事=正義という思考を
配属当初から刷り込まれてしまっているし、なにより
名誉も女も手に入る“職務”の旨味に気を良くして、
職権と私利私欲の区別がまるでついてない。
「大きな善事を為すための小さな悪事」と
いつも言い訳するが、何度もやってるうちに
感覚が麻痺して、いつの間にやら悪事の方が
善事より膨れ上がっている事に気付かないのである。
いや、それとも目先の利益ばかりに目が眩んで、
気付かない振りをしていただけだったのだろうか。
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所詮は脆い金メッキに過ぎないのに、諸星の一時ばかりの
輝きを信じたばかりに、身を滅ぼしてゆく周囲の人々。
諸星自身もゾッとするほどの高さからの急降下。
クスリで身も心もボロボロになり、信頼する“弟”に
さえ相手にされなくなった彼の憐れさと言ったら。
みんなみんな自業自得なんだけど、それでも人並みに
仲間や家族や恋人を想う彼らを見ていると、なんだか
やりきれない気持ちがこみ上げてくる。
最後、自分を切り捨てた道警をそれでもかばう諸星。
とんでもなく間違った正義ではあったけど、
彼は自分の行為が世の中の為になってると
やっぱり信じたがってたんだと思う。一方で、
若い刑事の青臭い言葉にふっと黙り込んだ時、
「自分は道を踏み誤ってしまったのでは」とも
心のどこかで感じていたのではと思う。
鑑賞中はニセウルトラセブンばりの大暴れを見せる
諸星に呆気に取られるものの、けっきょく彼以外の
警察メンバーは殆どおとがめ無しというオチには唖然。
それまでの彼の犯罪行為を黙認しておきながら、
全ての罪を彼や彼の仲間におっかぶせた連中こそが
一番汚くて一番悪い奴らに思えてならない。
悪い奴ほどよく眠る。夢から覚めた悪い奴の分まで
眠りを貪る奴らが、まだどこかにいる。
<2016.06.25鑑賞>