「タランティーノが"らしくない"映画を撮ったのに、みんなに"らしい"と言われてショック受けてると聞き、長々と感想を書きに来ました(笑)」ヘイトフル・エイト さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
タランティーノが"らしくない"映画を撮ったのに、みんなに"らしい"と言われてショック受けてると聞き、長々と感想を書きに来ました(笑)
※長文&暴言注意※
(ここ数日、心の中で発酵させ続けてきた鬱憤です)
タランティーノらしい!
タランティーノらしい!
タランティーノらしい!
って絶賛が多い中、どこがタランティーノらしいんだよ!?
会話にぜーんぜん、コストがかかってないじゃん。
パルプフィクションとか観たことないの?字幕追うだけじゃなく、ちゃんと聞いて、いや英文で読んでみて。
タランティーノが無視しているのは、映画のお約束だけではなく、文章作法のお約束もだって分かるから。
この言葉を、この文にくっつける?っていう、独特な言葉選び、遊び。言葉のコーディネートのセンスが、群を抜いていた。斬新だった。そこが大好きでした!
でも"キル・ビル vol.2"でタランティーノに、「所詮、お前と俺は違うのさ」って捨てられ、長らく疎遠でした。でも"ジャンゴ 繋がれざる者"で、よりが戻ったんです!
それなのに……。今回は、"スーツの青木"じゃないか(青木さんを否定していません。すみません)!!!
"今までの"タランティーノ作品と大きく違っているのは、この点だと思う。
本編と関係ないと思われるような長話(後でそれが効いてくる場合あり)、例えば"レザボアドッグス"の「マドンナの話」"パルプフィクションの"「フットマッサージの話」「チーズ・バーガーの話(大好き!)」「5ドルのバニラシェイクの話」"ジャンゴ"の「KKK団のかぶり物の穴の話」などなど。
どうでもよくね?と思われる、しつこい、しつこい、しつこい無駄話。
本作には、そんなのが一個もない。
ネタバレ厳禁映画。
ネタバレ厳禁映画。
ネタバレ厳禁映画。
って、そもそもクレジットに"チャニング・テイタム"の名前あるじゃん(笑)!
流石になんかするでしょー、チャニングが(笑)
旬ですよ、旬!
あれでびっくり!どんでん返しだなんて、まさかミステリー童貞か!?
つか、日本のキャッチ「タランティーノが仕掛ける密室ミステリー」に引きずられてるだけじゃね?
そもそもタランティーノ自身が、"オリエント急行殺人事件"風味だって言ってる=監督自らネタバレしてるじゃん!
だから、ネタバレ厳禁映画であるわけないでしょ(笑)?
密室で起こった殺人事件、犯人は誰?誰かが嘘をついている!緊迫した空気、癖のある登場人物が繰り広げる、緊迫した会話劇!
な、わけないじゃん。もー、そこじゃないよー!
え、もしかして"オリエント急行殺人事件"を読んだこともなければ、観たこともないの?
それと、雪、地下、カート・ラッセル、誰が犯人か?で、ピン!と来て。
そう!"遊星からの物体X"じゃん!
あ!うわー、すみません!こんなテンションですみません!
あ、因みに、上映時間168分のうち半分近く寝てたので、寝たシーン(理由)、意識が覚醒したシーンを中心にお話しします。
宜しくお願いいたします。
(最初の30分:サミュエル・L・ジャクソンの"氷室京介ばり"なキメポーズが格好良い件)
雪原の中を走る馬車、朽ち果てた十字架、エンニオ・モリコーネの不穏なスコア。ミステリー?ホラー?健全ではない怒りと、同時に絶望を感じる。
すげーいいや!すげーいい!
うわ、やっぱタランティーノ観ることにして良かったーと思える、わくわくオープング。
実は、映画館に飛び込み、その瞬間に時間が合う作品を観ることしかできません。
で、たまたま、タランティーノのポスターが目に入り、「ちょwタランティーノの密室ミステリー?マジか!?」と、ほぼ前知識なしに観たのです。
時代は、南北戦争が終わって数年後。
元北軍少佐で現在は賞金稼ぎのマーキス(サミュエル・L・ジャクソン)は、大雪の中で立ち往生していた時に通りかかった馬車で、"ハングマン"の異名を持つ賞金稼ぎのルース(カート・ラッセル)と、1万ドルの賞金をかけられた囚人デイジー(ジェニファー・ジェイソン・リー)と出会う。ルースはディジーを処刑する為に、レッドロックに向かっていました。
途中で新任保安官だというマニックス(ウォルトン・ゴギンズ)を拾い、この4人のレッド・ロックへの旅は続きます。
ここまでの見所は、
①雪原、壮大な風景&壮麗なモリコーネのスコア
②手鼻をかむデイジー
③前歯を折られるデイジー
④鼻血ブーのデイジー
⑤ニ○ーと連呼するデイジー
⑥雪原にまるで氷室京介ばりに立つマ-キスのボレロ?コートの裏地の辛子色がカッケー
となっております。
(私の意識が落ちた瞬間)
マーキスは元北軍少佐で、リンカーンと文通していた経験がある。また、その手紙を、肌身離さず持っています。
ええ、おかしいですよね?
黒人で南北戦争時少佐だったということ、またリンカーンの手紙を大事に持っているということが。ここ、匂わせ過ぎです(笑)
南北戦争の大儀の一つは"南部の奴隷解放"でした。リンカーンは南部の奴隷を解放し、どうしたかったんでしょう?
理由の一つは、南部だけが独占している、"奴隷という安価な労働力"が欲しかったんですよねー。
解放された奴隷達に、好条件の仕事なんかありませんからね。
安い賃金の仕事をするしかないんです。ええ、リンカーンの狙い通りです。
結果的に、生活は以前と変わらなかった。またリンカーンは黒人に「40エイカーの土地と、ラバをやる」と、まともな生活ができることを約束しましたが、それを反故にしました。
スパイク・リー監督の会社「40 Acres & A Mule Filmworks」は、ここからきています。
つまり、マーキスはリンカーンへの敬愛の情から、大事に手紙を持っているわけがないのです。
リンカーンの黒人達への仕打ちは「破られた約束」の代名詞とされているのですから。
しかも、ルース&デイジー&マニックスは、南部の人間です。
南部VS北部の図式、ストレイトに匂わせ過ぎてて鼻につきます。
"今までの"タランティーノのセンスでは、考えられません。
あれ?タランティーノっていかにも本編に関係ないって話を永延とさせて、最後にそれが効いてくるパターンじゃなかったっけ?
匂わせ過ぎる冒頭のやりとりで唖然とし、意識がストンと落ちました。
(爆睡:15分経過→覚醒)
※途中、エクソシストの曲が流れて目が覚めたような気がする……。
大雪から避難するように、馬車はミニーの店に到着。
あー、着いたんだーと、目が覚める。
(その時は知らなかった)あ、オリエント急行殺人事件だ!と思いました。でも、登場人物1人1人の自己紹介が始まって、またストンと意識が落ちたんです。
だってー、"オリエント急行殺人事件"なら、全員グルじゃーん。みんな嘘つくじゃーん。
あ、(オリエント急行殺人事件含め)ネタバレすみません!でも映画好きのみなさんなら、もうご覧になってますよね?
しかも会話、何一つコストかかってない。てか、匂い過ぎるんです。
ティム・ロス演じる自称"レッドロック死刑執行人"イギリス紳士風のモブレーに、「俺は正義だ。何故ならハンギングするとき、囚人に対して偏見を持ってないから。偏見があるところに、正義はない」みたいな、よさげに聞こえて、たいして上手いこと言えてない台詞。
"偏見""偏見"って、匂わせ過ぎる台詞が多すぎるって。
"千と千尋の神隠し"以降のジブリ映画みたいじゃん(あ、全力ですみません)!
ちょ、タランティーノ!駿さんみたいに、変な使命感背負わないでー(あ、全力ですみません)。
んんんんー?となって、あ、ブルース・ダーン出てるんだー(ローラ・ダーンの父ちゃん)って思った瞬間、何故かストンって意識が落ちました。
(爆睡:20分経過)
コーヒーに毒が仕込まれてた!
ぶしゅーーーー!ルースが大量の血を吐きます!隣でデイジーが「地獄でデイジーに送られたって言いな」
と。う、ぞくぞく!完全に意識が覚醒しました。
ここから、割と起きてましたよー(笑)
だって、目がぱっちりする台詞をマーキスが言うんですもの。
こうです。
「俺たち黒人が安心できるのは、丸腰の白人だけだ」
うわわわわーって思いました。
ええ、ぞっとしたんです。
大事なことなのでもう一度言います。
ぞっとしました。
なんてコストがかかってない台詞!
タランティーノの映画だと思えません。
こんなこと、スパイク・リーが30年も前から言っています。
本作の匂わせ過ぎるテーマも、スパイク・リーが30年も前から掘って掘って掘り下げてる。人種差別、逆差別、偏見、女性差別、女性への暴力……。それこそ、リンカーンだって。タランティーノはご自分のルーツ的に、リンカーンが外せないのは分かりますけど。
ここから、脳みそがぶっ飛ぶシーンが度々あります。
でも、タランティーノ自身が言ってたような「僕の映画には、グロさの中にもユーモアという砂糖」は、ありません。
また、今までのタランティーノ作品に登場していた、例えば"イングロリアス・バスターズ"のハンス・ランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)のような、レーダーチャートの数カ所が著しく低い(マイナス)けれども、どこかが思い切り振り切れた異常なバランスの、だけどトータルで魅力ある登場人物がいない。
「登場人物に魅力がないのは、作者本人に魅力がないから」
あ、すみません!私ではなく、奥田英朗せんせが仰ってたんですよ。
ラスト、北軍のマーキスと、南部で黒人を大勢殺していたマニックスが心を通わせ、ハンギングされたデイジーが藻掻き苦しみ死ぬ姿を見上げて終わります。
拳銃で簡単に殺してはいけない。こうでないと。と、マーキス。
この殺し方って、ビリー・ホリデーの"奇妙な果実"で歌われた、黒人を縛り首にして木に吊るすリンチを模しているのでしょうか。
ええ、分かります。
これが、タランティーノ流の"ピース"でしょうね。
マニックスが最後に、リンカーンの手紙を朗読します。
そして〆の一文「メアリートッド(リンカーンの奥さん)が呼んでいる。床に就く時間だ」で、「メアリー・トッドとは、感動的だな」と言うんです。
字幕では確か「メアリー・トッドとは、上手い"創作"だな」だったように思います。
映画はあくまで創作で、リアルではない。しかしリアルだけが、人を感動させるとは限らない。
以前タランティーノはインタビューで「あなたは暴力的な映画を観て楽しむことと、現実世界で暴力的になることがまったく関係性ないとどうして確信できるのですか?」
という質問に対し、「そういう質問を俺にするな。俺は答えることを拒否する」と答えています。今まで20年かけて、俺は関係性がないことを証明していると。
今回のラストでも、それを証明していたように思います。
が、なにぶん、半分寝てたもので、よく分かりません(笑)!
なのに、長々と書いてすみません!
今までとは意図的に違うのに、「いつものタランティーノ節!」とか言われてたので、ちょっと可哀想になったんです。
タランティーノを、銃ドンパチだけの監督で括らないで欲しいんです。
あ、そうそう。冒頭とラストに朽ち果てた十字架が出て来ます。
ご存知の通り、キリスト教というのは"告白的宗教"です。自分が信じ、学んで来たこと、経験し考えたことを、神と他人に告白する宗教です。これは、タランティーノの宗教的告白なんでしょうね。
もちろん、観客への。
※日本のポスターって、格好悪くないですか?