ブルックリン : 映画評論・批評
2016年6月28日更新
2016年7月1日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
故郷を離れ、自由を手にする少女の成長をシアーシャ・ローナンが的確に演じる
仕事がない。出会いもない。そんな閉鎖的なアイルランドの町を後にしてニューヨークのブルックリンへ移住した少女が、葛藤と選択を重ねながら自分の居場所を確立していく物語は、青春映画の王道を行く。が、アメリカからアイルランドへ一時帰国する主人公のまなざしを通して、故郷と新天地の長所と短所を検証するエピソードが盛り込まれているのは、この映画ならではのユニークなポイントだ。
ふたつのビーチの場面が印象深い。ひとつめは、新天地アメリカの生活になじみ始めた主人公のエイリシュ(シアーシャ・ローナン)が、イタリア系の恋人と共にコニーアイランドへ海水浴に行く場面。エイリシュは新調の水着とサングラスに身を固めてアメリカ娘を装うが、人で埋め尽くされた都会のビーチを見てカルチャーショックを受ける。ふたつめは、アイルランドに里帰りしたエイリシュが、幼なじみの友人たちと海水浴に出かける場面。広大な無人の砂浜を目にしたエイリシュは、これまで気づかなかった故郷の美しさを再発見する。前者のエイリシュはアイルランド人の目でアメリカを眺め、後者のエイリシュはアメリカ人の目でアイルランドをみつめている。そんな彼女が、どちらの地にいるときアウトサイダーだと感じ、どちらの地をホームと定めるのか? その選択を、私たちはハラハラしながら見守ることになる。
面白いのは、アメリカへ出発する前とは異なり、どちらの地もエイリシュの居場所になりえることだ。両方に愛があり仕事がある。アメリカには未知の冒険があり、アイルランドには安らぎがある。それらを自由につかみ取り、選び取る権利と資格を、エイリシュは2年間のアメリカ生活を通じて手に入れたのだ。そんな彼女の成長の過程を、まるで順撮りしたかのように的確に演じるシアーシャ・ローナンの演技は、やはりこの映画のいちばんの魅力。さらに、エイリシュの洗練の度合いを、アイリッシュ・カラーのグリーンの服の着こなしで表現した細やかな演出にも注目だ。
(矢崎由紀子)