劇場公開日 2017年1月28日

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恋妻家宮本 : インタビュー

2017年1月25日更新
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阿部寛&天海祐希、日本映画史に残る“ビッグ・カップル”待望の邂逅

20年という歳月で培った技量をぶつけ合える、待望の邂逅(かいこう)を果たした。阿部寛と天海祐希。共に主演として第一線を張り続け、互いに刺激を受けながら歩んできた“心の同志”が絶妙のタイミングで出合ったのが「恋妻家宮本」だ。初監督に挑んだ希代の脚本家・遊川和彦氏の熱血演出に寄り添い、子育てを終えた後の夫婦のひとつの在り方を時にコミカルに、時に真摯に提示し新たな魅力を放った。日本映画史に残る、まさに“ビッグ・カップル”の誕生である。(取材・文/鈴木元、写真/根田拓也)

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阿部は、天海が宝塚退団後の初ドラマとなった1996年の「橋の雨」に出演。その3年後には映画「必殺!三味線屋・勇次」でも現場を共にしているが、じっくりと向き合うシーンはほとんどなかった。それから共演がなかったのは意外だが、互いの出演作を見て励みにしながらそれぞれの地位を確立してきた。

阿部「勝手に、共に頑張ってきたみたいな気持ちでいたんです。いろんな作品に出合って、主演女優として積み重ねてきた心みたいなものをすごく感じるんですよ」
 天海「どんなジャンルでも皆を引っ張って中心にいる役者さんなので、その姿を見て私もまだまだ頑張ろうって初心に帰るんですよね。阿部さんがこんなにチャレンジしているんだから、私も小さくまとまらないで頑張ろうと励ましてもらえる存在です」

そんな2人を引き合わせたのが、人気ドラマ「家政婦のミタ」などで知られる遊川監督だ。一人息子が結婚し、夫婦水入らずの時間をゆっくりと過ごそうと思った矢先に、妻の判が押された離婚届を見つけ慌てふためく夫・宮本陽平が阿部の役どころ。遊川監督は初のタッグとなる。

「すごく優しい脚本で、第一作として監督される作品で声をかけてくださったのがすごくうれしかった。脚本にこだわられていて、色々な噂を聞いていたけれど、ただ者じゃないと思ったから何かすごく面白い体験ができるんじゃないかと。それに天海さんという強い味方が奥さんをやっていただける。満を持して夫婦役できっちりお芝居できる喜びがありました」

一方の天海は、「女王の教室」などに続き遊川作品は4本目。新入社員が選ぶ「理想の上司ランキング」を7連覇中で、「BOSS」シリーズや「Chef 三ツ星の給食」などリーダーのイメージが定着しているが、妻・美代子はテキパキとしながらも夫を温かく見守るキャラクター。「私とは遠いところにいると思ったので、それでも私でよろしいですかとうかがった」そうだが、遊川監督たっての希望を意気に受け止めた。

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「遊川さんはこうやってほしいというビジョンがはっきりある方なので、監督の中で可能性があると思ってくださったから声をかけていただいたんだと思います。阿部さんとまたご一緒できるともうかがったので、ぜひやらせてやらせてという感じで(笑)」

撮影の1カ月ほど前に行ったリハーサルから遊川監督の演出がスタート。“物言う脚本家”はもともと俳優を志していたこともあり、“身振り手振りで動き回る監督”でもあったという。阿部への要求は「今まで見たことのない阿部さんを撮りたいので、見たことのある芝居はしないでください」だったと苦笑する。

「そのくらい強気な感じできてくださったので、これは面白いなと。でも実際にやるとついつい自分が出てきてしまう。まず声の低いところを封じましょうと言われたけれど、『下町ロケット』のすぐ後だったので心が入っていくと低くなっちゃう。そうしたら『それ、見ました』って言われて。監督が毎回手取り足取りやってくださる感じだったので、僕もそこに乗って何かを発見し、新しい演技が生まれたらいいと監督の力を信じてやっていました」

そんな夫の姿を、こちらも“ボスキャラ”を封印した天海は頼もしく感じていたと振り返る。

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「阿部さんは格好いいのに、陽平のようなチマチマした感じの役で、ご自分のやりたい芝居をがっちり封じて監督のおっしゃる通りに動いていらっしゃった。年齢が上がると、それは違うんじゃないかと思うところは私なんか抵抗しちゃうんですけれど、阿部さんは柔軟な考え方と器の大きさで、イラッとした顔や怒った顔を見たことがない。阿部さんが真ん中にどんと構えてくださるので、私はそれに寄り添えればいいと。騒いでいただけですけれど、映画のように温かくて優しい現場でした」

揺るぎない信頼関係で結ばれた2人のやり取りは実に自然体で、テンポのいい掛け合いには思わず笑ってしまう。酔ってソファで眠ってしまった美代子に、陽平が「やっぱ老けたなあ」と本音を漏らすところなどは思わず吹き出してしまったが、天海は「あれはそのまま素の私。もうシミだってしわだって白髪だってあるし、そんなのは全然かまわないですよ」と笑い飛ばす。

撮影を経てより深まった夫婦のきずなは、線路を隔てた駅のホームで本音で向き合うクライマックスに集約される。それをもってクランクアップだったこともあり、2人にとっても充足感に満ちた大団円となった。

阿部「夜の電車って幻想的で不思議でしたよ。3日間やって夜中に終わったんだけれど、あの場所も含めてすごくいい終わり方でしたよ」
 天海「駅のピーンと張り詰めたような雰囲気までもが味方してくれたような気がして、白い息を吐きながら2人で思いを伝え合っているのはすごく素敵でした」

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阿部はまだ子どもが小さく、天海は独身だが、30年近く連れ添った夫婦の営みを疑似体験という共通言語で表現したのが印象的だった。

阿部「まだ想像できないけれど、こういうことが起きるだろうなということは勉強させてもらったし、自分で演じて作品ができると映っているものが伝わってくる。そういう疑似体験ができたのはすごく良かったと思いました」
 天海「私は今、独りでいるのがものすごくいい感じなので、家族がいるのに孤独を感じている美代子のそういうところは分からない。でも、とても穏やかな温かい夫婦、おうちの感じを阿部さんに擬似体験させていただきました」

阿部は現在、チェン・カイコー監督の日中合作「空海」で安倍仲麻呂を演じており、さらに活躍の場を広げそうな勢いを感じる。天海も、今年は「チア☆ダン 女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話」「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」と話題作への出演が続く。2人がスクリーンで再び対じする姿を見られるのも、それほど遠い未来ではないだろうという期待が高まった。

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