劇場公開日 2016年7月2日

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疑惑のチャンピオン : 映画評論・批評

2016年6月21日更新

2016年7月2日より新宿ピカデリーほかにてロードショー

ヒーローの裏の顔、ドーピングの実態とスポーツビジネスの闇を暴く衝撃作

スポーツとドラマは相性がいい。25歳で精巣癌を患いながらも奇跡的な復活を遂げ、“ツール・ド・フランス”で7連覇を達成したランス・アームストロングほど、ドラマの主人公として相応しい人間はいなかった。苦難の果てに栄光を手にしたロードレーサーであり、難病を克服したサバイバーの象徴でもあったからだ。

しかし、このドラマには裏があった。アームストロングのドーピング疑惑を徹底追求し、おぞましい薬物投与の実態を暴いたジャーナリストの著書に基づく本作は、出来すぎた成功物語の向こう側にするりと回り込む。そうして、表向きは不屈のヒーローでありながら、その実、薬漬けのアスリートだった男の人物像と、彼と結託したスポーツビジネスの闇に分け入り、細部を照射する。

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描かれる事実はどれも衝撃的だ。レース場へ移動中に停止させたバスの中で、アームストロングとチームメンバー全員が体を横たえ、スポーツ医学の権威であるチームドクターが編み出したハイブリッド血液を投与されるシーン、レース直後に行われるドーピング検査に間に合わせようと、大急ぎで袋から点滴を絞り出して血液を元の状態に戻そうとするシーン、等々。それらの行為が、まるで食事と排泄のように当たり前に繰り返される奇怪さはどうだろう!?ビッグマネーが動くロードレースに関わるドクター以下、監督、エージェント、弁護士等、不正をスルーする面々の罪悪感のなさは言うまでもない。

一方で、映画はアームストロング自身にも反論の余地を与えていない。そもそも、彼は癌発症時点でドーピングに手を染めていて、それがすべての始まりである可能性を、断定的ではないが冒頭で伝えているからだ。つまり、ドーピングはスポーツ界全体を覆うどす黒い暗雲ではあるけれど、同時に、病魔云々に関係なく、アスリート本人のモラルと人間性に帰結する問題でもある。ベン・フォスターの善玉にも悪玉にも見える玉虫色の表情が、アームストロング側に傾きがちな観客の衝動を拒絶して、今回は特に適役だと感じさせる。オリンピックイヤーに心構えとして観ておきたい1作だ。

清藤秀人

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