劇場公開日 2016年9月3日

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エミアビのはじまりとはじまり : インタビュー

2016年9月2日更新
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森岡龍&前野朋哉「エミアビ」で急接近した“兄弟弟子”の関係性

渡辺謙作監督が約8年ぶりにメガホンをとった映画「エミアビのはじまりとはじまり」が、9月3日から公開される。テレビドラマ「天皇の料理番」「64」「あまちゃん」で存在感を示した森岡龍と、auのCMで一寸法師役を演じ注目を集めた前野朋哉が、漫才コンビ役に初挑戦。暗中模索を経て演じきった2人は、互いの関係性を「兄弟弟子」と表現する。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)

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人気急上昇中の漫才コンビ「エミアビ」の海野(前野)が、自動車事故で死んでしまう。残された相方・実道(森岡)は、マネージャーの夏海(黒木華)とともに恩人である先輩芸人・黒沢(新井浩文)に会いに行く。海野の車には雛子(山地まり)という女性が同乗しており、雛子は黒沢の妹だった。実道と黒沢は雛子の遺影に献杯するが、黒沢はこう語りかける。「実道、俺と雛子を笑わせろ」。

森岡は、脚本を読んだ際に「漫才どうしよう」と思ったという。「一番頑張りどころでもありますし、不安でもあり、腕が鳴るところでした」。一方で前野は、「なんとかなる」と思っていたそうだ。「漫才監修の方が付くだろう」という思惑があったが、後々、そのことが窮状を招く。「バンドの映画なども、先生がついて一から教えてもらうということがよくあります。と思ったら、監修がつかないと発覚し、監督が『僕ら3人で作っていくんだ』と。そこからが大変。撮影前の1カ月ほど、暗闇のなかを歩きました」。

これには森岡も「喉元すぎれば青春の1ページですが、やっている最中は本当にどうなるんだと思った。どこから手を付けて良いのやら、そこに一番時間をとられモヤモヤしていましたね」と顔をしかめる。しかし、テーマに掲げた“毎日顔を合わせる”が功を奏した。「後半、ネタがどんどん固まってきて、それからはバババッと漫才師になれた気がします。芸人さんの人生を追体験というと過言なんですが、100倍速でコンビになっていったのは事実です。CDの貸し借りから始まり、お互いの違いを知りつつコンビになっていきました」(森岡)、「渡辺監督も後半は付きっきりで見てくれた。新井さんの家でネタ見てもらったり、共演の松浦祐也さんに『スピードが足りない』と言われ1.5倍速でやってみたり、試行錯誤しました」(前野)。

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漫才は渡辺監督とともに3人4脚で作り上げたが、撮影時の演出はどんなものだったのだろうか。クランクイン当日は、黒沢の家で実道が遺影に相対しネタを披露するシーン。実道は黒沢からダメ出しを食らい続け、精神的に追いつめられた挙句「俺、海野がいないとダメなんです」と涙を流す。

森岡は役どころと同様、新井と渡辺監督に徹底的にしごかれた。森岡が「初日がマックスやばい時で、マジで逃げようと思ったよ……。まず罵詈雑言。『面白くない、つまらない、下手くそ、ハイもう1回、本気でやれ、口開いている、何なんだお前』」と振り返れば、前野は「やばい、聞いただけでもお腹が痛い」と顔を伏せた。

とはいえ、超スパルタは初日から2日間のみ。森岡は「渡辺監督は役者ごとにアプローチが違うんです。僕と山地さんにはスパルタで、新井さんとは共犯者」と明かし、前野は「その演出の仕方って面白いよね。仕上がりが面白かった。明らかに森岡くん追い詰められていますし」と唸った。その甲斐あって、同シーンは今作の白眉とも言える出来栄えとなり、森岡自身も手応えを得たようだ。

そもそも、森岡と前野の共通点は枚挙に暇がない。所属事務所、映画監督としてのキャリア、共演作も「片手では数えられないほど」あり、互いの関係性を「仕事仲間でありライバル」と語る。今作では最も長く濃い時間を共有しただけに、印象にも変化があった。

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前野「森岡くんの素直な部分が見えましたね。弱さみたいなものもさらけ出してくれた。さらけ出させられたのかな(笑)。でも、そこが見られたのはすごく嬉しかった」

森岡「隣で見ていると、非常に堂々としているというか、ドシッとしている。安心感、安定感をすごく持っている」

そして、特筆すべきは石井裕也監督との縁だ。森岡は「あぜ道のダンディ」「舟を編む」など常連で、前野は照明助手・役者として参加した「剥き出しにっぽん」でキャリアをスタートさせた。森岡は「石井さんを師匠とした兄弟弟子みたいな関係だよね」と話し、前野も「僕は大阪芸術大学で石井さんに会った“大阪枠”、森岡くんは石井さんが東京に行ってから作品をやっている人、という感覚ですね」と同調。今作で苦楽をともにしたことで、兄弟弟子のコンビネーションはさらに磨きがかかった。

石井監督作「舟を編む」の脚本で、第37回日本アカデミー賞の最優秀脚本賞に輝いた渡辺監督が、身近な人の死の経験を基に物語を紡いだ。生と死、そして笑いと涙が混交する人間模様を、前野は「ひとつの生きる処方箋。立ち直れない状況になった時、自分ならどうするか。ひとつの答えを提示してくれている」と評する。

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対して森岡は、生きている実道と死んでいる海野が、センターマイクを挟んで並ぶビジュアルが象徴的だと指摘する。「生前の海野と、今を生きている実道と、2人が生きていた時間は平等なんです。生きている僕たちはなんとなく『今を生きている』ことが正統だと思いがちですが、かつて流れていた時間も、あらゆる時間は尊くつながっている。死ぬことと生きることは表裏一体だと感じました」。

また2人はM-1グランプリ2016に出場し、1回戦を突破している。高校時代にもM-1に出場した森岡は、今回の勝ち上がりを「ラッキーだよね。滑りこみ、みたいな感じ。俺ネタ飛んじゃったし(笑)」と評価する。2回戦は、10月上旬に開催。切磋琢磨し合う兄弟弟子の挑戦と行く末から、目を離すことができない。

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