「1への回帰も,プロメテウスが邪魔している」エイリアン コヴェナント アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
1への回帰も,プロメテウスが邪魔している
字幕版を鑑賞。エイリアンシリーズの最新作で,コヴェナント(Covenant)とは宇宙船の名前であるが,契約という意味があり,キリスト教では神との聖約という意味まで発展する。シリーズ物の映画というと,どんどん話が後に続くのが普通であるが,このシリーズだけは1→2→3→4と一旦時系列に沿った後で,5作目に1作目の前の話を描いたものが「プロメテウス」であった。今作は,そのプロメテウスの後日談で,1作目の前の話である。従って,時系列で並べれば,プ→コ→1→2→3→4となる。1とプロメテウスと本作は,同じリドリー・スコットの監督作である。
作を重ねるごとにエイリアンの生態や繁殖法に改変が追加されており,最初は捕獲した生物を卵に変質させるというものであったのに,2では卵を産むクイーンが登場し,3では寄生した動物によって成体の姿が変わり,4では胎生になって赤ん坊を産むようになってしまった。プロメテウスではさらに異星人や新種のエイリアンを加えてしまったのが何だかなであったのだが,本作はさらにその上を行くシステムの改変が行われていた。ハッキリ言って,今回の寄生法が最も効率的であるが,それほど怖くはなくなってしまうし,フェイスハガーが不要になってしまうようでは映画的に全く面白くないとしか思えない。つくづく,第1作を考えついた脚本家のダン・オバノンは偉大であり,後の誰もが彼の域には達していないと断言せざるを得ない。
この原因は,スター・ウォーズシリーズと違って当初からシリーズ化が想定されていなかったためであると思う。スター・ウォーズも作を重ねるにつれて様々な後付けの話が盛り込まれてはいるが,シリーズの背骨のようなものの存在が感じられるのに,エイリアンはそれがない。「ターミネーター」のように,作品間で設定の矛盾が発生するまでには至っていないが,設定が変わったり新たな生態が盛り込まれるたびに怖さが失われてしまうのには,「ジョーズ」シリーズのようで,正直,頭を抱えたくなってしまった。本作など,エイリアンの血液が強酸性で金属を溶かすという設定が忘れられたのではないかと思いたくなるほど,金属製の船体の上で平気でエイリアンに対して発砲したりしていて本当に呆れた。
人間側の描写もかなりいい加減になっており,1作目でフェイスハガーに襲われた隊員の入船をあれほど頑なに拒絶するシーンがあったのに,今作では異常をきたしたクルーを何の問題もなく船に入れているし,そもそも,大気の成分が地球と同じだからと言って簡単に宇宙服のヘルメットを外してしまうといういい加減さは,もう馬鹿じゃないのとしか思えなかった。悪質なウィルスが大気中に混じっていないとは限らないのである。
プロメテウスでも感じたのだが,この監督はヒロインの美醜にあまりこだわりがないらしく,今作のヒロインが一見,近藤春菜に見えてしまったのにはかなり失望した。クルーの中に,夫婦や恋人同士という関係が多かったのが不自然な感じがしたし,その必要性も疑問だった。人間は犠牲者になるためにいるのではないかという感じが鼻についた。映画の前半は,クルーの人間関係を描くのに費やされていたが,ほとんど無駄ではなかったかと思えて仕方がなかった。人間よりむしろロボットの活躍の方が目立っており,ロボット同士のカンフーなど見に来たのではないのだが,と言いたくなるシーンもあった。ロボットなのに髪の毛が伸びるのか,といった説明不足のシーンも気になった。
音楽は,前作のプロメテウスでやたらショパンが流れていたのに対し,今作はワーグナーであった。「ラインの黄金」の終幕近くに流れる「ヴァルハラ城への神々の入場」が大きく取り上げられていた。神々を「人間でないもの」と置き換えて考えれば,映画のヒントになっているのだろうと思われた。ただ,全1幕の「ラインの黄金」の中の曲なのに,字幕で「第2幕の」という誤訳があったのには何だかなと思わされた。引用以外の部分では,プロメテウスを担当した人とも違って聞いたことのない人であったが,シリーズの第1作を手がけた大御所ジェリー・ゴールドスミスの音楽を効果的に下敷きに使っていたのが印象的で,映画の雰囲気を1作目に回帰させるような効果をもたらしていたと思う。
本作を見て感じたのは,このシリーズを面白くしていたのは,第1作の脚本を担当していたダン・オバノンのアイデアが非常に優秀だからであって,それを改変するたびに恐怖がなくなってしまうということであり,映画としての面白さを担っていたのは,スコット監督ではなく,8年前に亡くなってしまったオバノンの方であったということである。本作では,1作目の撮影時に技術的に映像化できなかったシーンのうさを晴らすかのようなパロディも多数盛り込まれているが,チェスト・バスターの形態まで変えてしまったのには失望した。
未知の星の風景などについてのこだわりがプロメテウスほどでなかった本作が,唯一評価できる点は,エイリアンの成獣をちゃんと出している点だが,画面の中に,3作目のように何度かエイリアン視点のシーンが出てくるのも気に入らなかった。目で見ているのかどうかさえ不明だから怖かったのである。折角の怖さを削いでどうするのかと言いたくなった。しかも,その画面が異常に見にくいのも気になった。あれでは犬や猫の方が視力がいいに違いない。なお,本作を観る前に,第1作とプロメテウスを観ていないとほとんど訳が分からない作品となってしまっているので,ご覧になる方はご注意されたい。
(映像5+脚本2+役者3+音楽4+演出3)×4= 68 点。
承知致しました。とりあえず最後に鑑賞したのがプロメテウスなので、まず1を見て二を見てプロメテウスに行きたいと思います。
これでコヴェナントを堪能することが出来ます。ありがとうございます。
楽しみです。おしょうしなー。
えっ、一からですか!!?
とすると、1→2→3→プロメテウスと全部見ないといけないのでしょうか?
それでは007やバイレーツオブカリビアンと同じ寝不足で死んでしまいそうです。どうしたら良いでしょうか?
うーん、とりあえず1とプロメテウスを見るとするか。で、どっちを先に見たら良いんだろう?順番から言えば過去に戻る、1→プロメテウスか?
それにしてもコヴェナントの意味がそういうことだったのかとわかっただけでも素晴らしい映画評だった。特に改行が効果的ですね。素晴らしいです、映画評が。
まぁ映画自体は点数は悪いが、ブルーレイのコレクションも全部持っているくらいのファンなのでぜひ見てみたいと思った。
それにしてもこれだけの長文をiPhoneから投稿するとは恐るべし、アラカンさま。