「ファンタジーを無理やり押し込すぎたかな」リップヴァンウィンクルの花嫁 songさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンタジーを無理やり押し込すぎたかな
『この世界はさ、本当は幸せだらけなんだよ』
岩井俊二ワールドなのか・・・正直よくわからない。ただ世間の評価はかなり高くて、みんながいい感性しているのか僕と感覚が違うのか。
SNSで知り合った男女がまるでネットショップのような安易さで交際しそして結婚に至る。ネットでの出会いは男女が出会うツールとしては特別なものではない。凡庸ではあるがイライラするくらい不器用な、黒木華演ずる七海はSNSの中に自分の本音を閉じ込めている。SNSでの自分と、リアルな世界での自分にどれだけの乖離があるのか・・・たぶん実はそんな表裏はなく、そこには同じ自分が同じ息を吸っているんだと思う。それがSNSのダイナミズムなんだろうな。
この映画は、綾野剛演ずる「アムロ」に象徴されていた。結婚披露宴出席者代行業、別れさせ屋、友達代行業・・・イージーでお手軽で、まるでワンクリックのような安易さで人生まで買えてしまう。そして後腐れのない人と人との距離感や関係性の薄っぺらさを自覚しつつも、そこでもがき苦しみながら自分の居場所を探し求めている人たちに、そのツールをひょうひょうと宅配便的な手軽さで提供していく。そして現代社会に生きる人たちの細い細い繋がりを補強していくのだ。Cocco演ずるAV女優、真白は「お金すら買うんだよ」といってファンタジーのようなシチュエーションの中で自死する。アムロが七海を連れ添って荼毘に付された真白の遺骨を母親に届けるが、はじめ投げやりに死んだ娘をののしる母親だが酔いにつれて少しでも娘の気持ちを理解しようと裸になって死んだ娘を共有し寄り添おうとし、それに感銘したアムロが裸になって一緒に泣きむせぶ。ただアムロの演出は少々くさかったが、まぁ監督の意図は伝わった。
映像美や挿入される音楽はすごく快かったし映画としては3時間の長編なのだが退屈せずに観ることができた。ただ、岩井俊二のファンタジーなイメージの枠に無理やり押し込めようとした感が否めない。期待していただけにちょっぴり残念な映画でした。