父を探してのレビュー・感想・評価
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探しに行ったら知らない世界があった
手作り感のあるアニメ。
癒されるBGM。
セリフは、カロリーゼロ表記のように少しだけあるが無いものとされている。当然ながら字幕もなければ吹替もない。
終盤、実写映像が少しだけある。
今作はキャラの個性は弱いが、手書き風の背景の絵が好き。
好きすぎて関連グッズを探しにネットに行き、パンフレットを見つけたのでポチっとカートに入れ、送料無料になるまでもう少し何か一緒に買おうと思いながらネットサーフィン(「映画」から「劇場版けいおん!」、「けいおん!」から「痛車」へ、そして「イタッシャ―」から『非公式戦隊アキバレンジャー』という好みの作品に辿り着き、その作品の超合金の変形ロボットやBlu-rayボックス等を購入して満足したり)していた。
今作はHuluで視聴できる(ちなみに今作に関係ない話で申し訳ないが、『非公式戦隊アキバレンジャー』は現在、配信されているサービスはない)。
【”それでも僕は、出稼ぎに行ったお父さんを探す。”少年が近代ブラジルで行われる搾取される農民、伐採される森林、独裁政権が支配する都会を見ながら歩む姿を描いた魅力的で斬新な絵柄のアニメーション映画。】
ー 今作では、アニメの人物は喋るが字幕が無いので、想像しながら鑑賞する。そして、ミニマルだが色彩豊かな、どこか温かみのある画も魅力的である。-
■親子3人で幸せな生活を送っていた少年。
だが、父がある日列車に乗って出稼ぎに旅立つ。
父を見つけて連れ戻そうと決意した少年は、過酷な労働が強いられる農村や、独裁政権がはびこる国際都市を旅し、出会いを重ねて、歩みを進めていく。
◆感想
・優しい絵柄の中で描かれる近代ブラジルで起きているだろう、事象が場合によっては映像や写真も駆使して描かれる。
・少年の脚は一本の線で描かれるミニマルさであるが、決して貧相ではなく色彩豊かである。
・少年は、レビュータイトルに記した様々な事を見ながらも、父を探す歩みを止めない。
<そして、今作では様々な事が暗喩的に描かれている気がする。それは、ネガティブな事であったり、ポジティブな事であったり。
だが、それは、全て観る側に解釈は委ねられるのである。
今作は、不思議なテイストの、けれども魅力的で斬新なアニメーション映画だと思います。>
驚異の落書き
ノートの落書きのような手触りの絵が動き出すと、次から次へと予期せぬ描写で目を楽しませてくれます。それは、主人公の少年が父を探す旅にオーバーラップしているように感じました。今まで観たことのないような描写は、劇中でも描かれる万華鏡のように変幻自在で目が釘付けになりました。メイキング映像も興味深いです。CGが当たり前の時代だからこそ、手作りの温もりがよいですね。
笛の音だけが
アシンメトリーで縦横無尽な山村の世界と、シンメトリーで画一的な都市の世界。少年はその度合いが前者から後者へと移り変わる冷たいダイナミズムを肌のうちに感じながら冒険を続ける。またここには子供-大人という対比も込められている。少年は山村から都会へと進んでいくにつれ「父との再会」という子供らしい希望を徐々に奪取されていき、最終的には、電車から降りてくる無数の父との出会いを通じ、逆説的に「父はもうどこにもいない」という大人的な諦観へ辿り着く。多彩な音に彩られた反政府デモ隊は黒々とした政府軍の攻撃によって打ち破られ、農園や工場で機械のように働くことで生計を立てていた人々は本物の機械の登場によって駆逐されていく。極めつけは、子供が見ていた世界が実のところ彼の人生の軌跡そのものだったことが明かされるシーン。彼の冒険を支えくれた力なき青年も、弱り切った老爺も、すべては彼自身だった。つまりどれだけ厳しく冷たい世界であれ優しい誰かがきっと助けてくれるという一縷の望みさえもがここで寸断されるわけだ。最後に彼が思い浮かべるのはマッチが生み出す幻燈のように儚い空想図だ。そこには母がいて、父がいて、そしてあの聴き親しんだ笛の音がある。きっと笛の音だけがたった一つ残された希望なのだと思う。無数の声なき声たちがあの笛の音のもとに再び集まったならば、あるいは今度こそすべてを黒で塗り潰そうとする巨悪に立ち向かえるのかもしれない。
幸福の美しさを忘れてはならない
主人公の少年は可愛らしいが、どこか無個性に見える。というか、そう見えるように描かれている、と思う。ニュートラルな少年の視点から、社会の美醜両面が明らかにされていく。いわば、これは戯画化された現実社会像なのである。
その点では、フレデリック・バックのアニメーションを連想した。色彩の鮮やかさや、テクスチャ感も通ずるかもしれないが、テーマやメッセージについても、結構近いように思われる。とはいえ、今作特有の個性は多分に見られ、驚かされた。
色鮮やかなものと黒っぽい無彩色なもの、世界の美の面と醜の面、それ等は割とはっきりと分かれ、強調されているかのように見えるが、実はあまりはっきりしていないようにも見える。
例えば工場労働者の若者の、都市での暮らしは幸福だろうか、不幸だろうか。労働は過酷そうだが、人々が大勢集まる祭りといった、都市ならではの楽しみもある。
大量生産の工程は非人間的でおぞましくも見えるが、人の叡智の偉大さととることもできる。
どんな社会が幸福だろうか、それは明確に示されてはない。だが、はっきりと感じられる監督の意志は、幸福の美しさを忘れてはならないということ、そして現実に進行している悪い事態を軽視してはならないということだと見受けられた。
実写のカットが唐突に挿入されているところは、一番に強烈だった。手書きの画風の中に現れる現実は異質で、グロテスクで暴力的だ。それ等はいうまでもなく、多くの現代人が目先の快楽の為に見ないふりをしている、実際の社会問題、自然環境問題なのだ。
台詞なし、手描き、といった手段は、作者の問題意識をオブラートに包むことで、受け入れられ易くしているのだと思うが、だからこそ、急に現れた直接的な情報はパワフルだった。
こういった問題提起の作品を、なんとなく不愉快に思う方は結構いるだろう。その理由は色々推察できるし、理解できなくもない。しかしだからといって、この作品を批判するのであれば、それは短絡的であまり賢くはないと思う。実際にある問題を、素直に問題と認めることを、この作品は訴えているように感じた。私は都市に暮らす人間だが、だからこそこの作品を軽んじないようにしたい。
冒頭にあざやかなパターン模様の幾何学的なカットがあり、それは小石のなかのミクロの世界であることが明かされる。自然界では、ほんの石ころ一つの中にも無限の美が見いだせる。その視線は、監督の鋭い感性と審美眼の証明になっているだろう。乱暴な物質的成長をなさずとも、何気ない平穏、すぐそばにある自然の中に、美は既に満ち満ちているのだ。
ブラジル
省略されたチャーミングな絵と多彩な音楽のアンサンブル。本来なら短編で良い所だが、退屈にさせないストーリー。資本主義世界を構図化し、最後の展開はぞわっとさせる。こちとら大人なもんで、そこまで世界を単純化、人生を縮図化されるのは閉口する。しかし、子供が見ればトラウマになりかねない程の影響力を持ちうる力強さがこの作品にはある。
世界に揉まれる
子供の目線で見た世界の縮図。
量産的、合理的、虚無的な行動がループされる世界。
子供の空想とカラフルな音楽が唯一の救い。
幸せとはなんなのか。
充実した毎日とはなんなのか。
人間が人生において目指す場所はなんなのか。
何が最も重要なのか。
そんなことを否応なしに考えてしまう。
直球かつ重たく鋭いメッセージを、
これでもかとクリエイティブにカラフルに描く。
どうしようもなく閉鎖的な世界では、
カラフルなクリエイティブにしか救いはない。
人々が生まれて死ぬまでの間にする行動は、
育みたい毎日は、到達したい最期は、、、
そんな想いに終着する、
望郷的天国が待ち受けるラストに心が解放される。
抽象的な世界が心に訴えかける、
創造性の素晴らしさが詰まった映画でした。
彩の中にブラジルの問題が潜む
緩いアニメ映画だと思って観ていました。
寝不足もあって観る前から少し眠くて、映画が始まった後も心地よい音楽と彩りなスクリーンに眠さが増す。
セリフ一切なし。画も緩いテイスト。100%寝てしまうと思ったのに、寝なかった。
(最初の10分は物凄い眠かったw)
出稼ぎに行った父を探す息子。
父との思い出メロディーが流れる。
途中悲しくなったりくじけそうな時陽気なメロディーが流れる。
そして健気に父を探す愛らしい息子。
途中色々な人に助けられる息子。
ほほえましくニコニコしてしまう。
--以下ネタバレ--
平和なアニメ映画だったなと思っていた矢先「え!?」と驚く。
今まで出会った助けてくれたおじさんは全部自分だった。
少年の視点で父を探していると思ったら、その少年の人生を"少年"という別の人物の視点で観ているかのように描かれていた。
なんて書いたらいいんだ。難しい。
このシーンから急にのほほんとした気持ちから一気に切なさが増す。
陽気なメロディーの中に切なさが漂う。
ブラジルの現状や発展途上国の問題も感じ取れる映画でした。
余白
夏休み、アニメーションということもあって、劇場には小〜中学生のお子さんの姿もチラホラ。普段、煮染めたようなオッサンたちに囲まれて映画を観ることが多いので、お若い方が居るというのは良いなあと思った。
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ポスターの感じからいって、ジョアン・ミロのような画なのかなあと勝手に思っていたが。
ミロも「ユビュおやじ」などストーリー性のあるものを描いてはいるものの、どのあたりがオヤジなのかもわからない抽象に比べたら、本作は随分と見やすい分かりやすいタッチの画だなあと。
画だけではなく、お話も思ったよりストレート。近代化・工業化・グローバル化で取り残されたもの…。小〜中学生のお子さんにも何となくは伝わったのではなかろうか。
———
ジョアン・ミロは、立体を平面に押し込んだらどうなるか?逆3Dのような画だが。
本作のアニメーションは、平面図のレイヤーが奥行き・立体感を生んでおり、素晴らしいなあと思った。
そして何より心動かされたのは画の余白。
アニメーションに限らず描き込み過多な映像が溢れる昨今には、眼に優しく余韻を残す作風だったなあと思う。
音楽もシンプルな笛の音で余韻を残す。
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父をさがして放浪する男の子が出会う、「年老いて農園を追われるおじいさん」「工業化で職を失うお兄さん」は、実は自分だったという構成は、何だか哀しい気持ちにもさせるが。それでも、昔男の子が植えた一粒の種が育って大きな木になるラストに救われる。
純粋に目の前のものを楽しむのが正解。
純粋に目の前の色の洪水と、湧き上がる音楽を味わうのが正解な一本。
絵本のようなビジュアルながら、物語は抽象的・哲学的で難解。
政治的なメッセージや世相風刺なども含まれており、非常に実験的な手段も使われたアニメーション。
正直な話、意味とつじつまを考えながら観ていては追いつかないと思う。
そんな流れの中で、ただ一つ人間の根源にある色彩美、音楽、湧き上がる「芸術」の表現は素晴らしかった。
見た目で観に行くときっと騙されるだろうが、もし観るのならば「アンビエント映画」として感じることをお勧めしたい作品。
肌で感じるアニメーション
もう感動の一言。作り手の熱意と創造意欲が肌で感じられる。肌で感じられるというのは鉛筆の削りカスなんか突起していたりとアナログならではの実際に肌で感じられそうというリアルに体感できるという意もある。とにかく、商業的ではなく自分の作りたいものを作っているという貴重な映画なのは間違いない。
豊かな色彩と可愛らしいキャラクターが特徴的でまるで絵本のような世界に魅せられる本作だが、内容は意外にも風刺が効いていて驚いた。それはブラジルの現代であり、世界の現代を映し出している。斬新な表現で世界の実情を知ることができ、こんな見せ方もあるのかとただただ感動する。鳥肌必須のラストからは何とも言えないカタルシスが得られる。
表現手法の面だったりストーリーの面だったり、短い時間で多くのことが得られて大満足。ブラジルが停滞気味のアニメーションに新しい命を吹き込んだかもしれない。今後に期待が高まる。
音楽 ナナ ヴァスコンセロとあったので 見てみた それほど 期待し...
音楽 ナナ ヴァスコンセロとあったので 見てみた それほど 期待してなかったが 意外と良かった。絵本がそのまま映画になった感じ 丁寧に作られている 現代社会への警鐘 批判の表現もあるが ブラジル政府 石油メジャーも協賛している。音楽も ナナをはじめとして 活躍してるミュージシャンが参加している。映画をきちんと文化 芸術として扱われている。日本では できない映画かなと思ってしまった…
非常に抽象的だけれども─
色彩豊かで二次元三次元の表現を巧みにしかも自由に構築しながら、抽象的な世界観から現実的な世界を再現させて、結果的に心にしみるストーリーを提示してくれた。
実に知性あふれる作品であった。
最初の物語の提示後すぐに、目眩く幻想へと引きずり込まれ、半ば意識が映画とは別の方向─瞑想、眠り…、創造など─に行って、合間合間で現実世界に引き戻され、最後、現実の時間軸に完全に引き戻された瞬間、言い知れぬ涙が止めどなく流れてきた。
同じような境遇を持った人、全く違った境遇の人、様々な人がこの作品を観賞することだろうが、多くの共有部分がそこにはある。
全国展開の巨大スクリーンでの上映を欲するところだが、フェスとかでなければ大画面での上映は望めないのであろうなぁ、こういった作品は─。非常に勿体ない。
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