「課題図書のような優等生作品」ザ・ブリザード ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
課題図書のような優等生作品
荒れ狂う海、次々と押し寄せる大波、沈みかける巨大タンカー…
4DXで鑑賞していたら、そのままディズニーランドのアトラクションになってしまうのではないだろうか。私は3Dで鑑賞したが、救助艇が大波を超える度に息を飲んだ。
嵐の中で漂流した巨大タンカーに取り残された32名の乗組員の救助に向かった4人の沿岸警備隊の活躍を描いた本作。1952年に実際に起こった話だというから、彼らの勇気に脱帽させられる。当然のことながら、今ほど通信技術も救助装備も充実していない時代、限られた情報だけを頼りに救助活動を行うことは、自殺行為にさえ見える。だが、メインとなる登場人物たちは皆勇敢に救助に向かう。日が暮れ、嵐で視界も悪く、次々とトラブルに見舞われようとも、決して諦めるような言葉は口にしない。
しかし、メインとなる4人の警備隊が全員勇敢に描かれるがゆえに、皆同じキャラクターに見えてしまうのが実に惜しい。実在の人物がどんな個性の持ち主であったのかは分からないが、勇敢な者、臆病な者、ひょうきんな者などそれぞれの個性があったに違いない。危機また危機の連続だが、そこを乗り越えて生まれる人間ドラマが乏しいのだ。
更にこの救助劇の最大の難所である、32名の乗組員をたった1隻の小型艇でどのように助けるのか?というところを何ともあっさり描いている。予想以上に救出すべき人が多いと分かった時の“じゃあ、どうする?”を描いてこそ、見る者に勇気と納得を与えるのではないだろうか?
映画を見終えて思い返してみると、「大波が来るぞ!」「羅針盤を失った!」など殆ど事務連絡的な事柄しか会話していないことに気がつく。良く言えば、無駄口を叩かない(或いはそんな余裕がない状況)生真面目さを演出しているが、逆にこれがキャラクター描写をするチャンスを海に投げ捨ててしまっている。
そのせいか“こんな大変な事件がありました。こんなに勇敢な人たちがいました。皆さんも頑張りましょうね”と、まるで夏休みの課題図書を読んでいるかのような印象が拭えないのだ。
子供から大人まで誰もが理解でき、誰もが興奮し、誰もが勇気付けられる作品作りはさすがのディズニー品質。ただ、良くも悪くも課題図書の域を出ていない。優等生は先生から可愛がられる。だが、本当のクラスの人気者とはチョイと問題児だったりするものなのだ。