「天知茂版明智小五郎シリーズ」マジカル・ガール いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
天知茂版明智小五郎シリーズ
監督自体もあの頃のテレビドラマが好きだと公言してるようで、全体の雰囲気もなんとなく懐かしい感じと、しかしあくまでもスペインの乾いた空気が漂う画風である。始めの主人公である求職中の教師がネット検索する際のポータルサイトが『RANPO』という名称にもそれが表われている。
プロットとすれば、一寸複雑な話の進行で、3人の人間がそれぞれのストーリーを持ち、それが絡まり合う群像劇のような流れで、それぞれが闇を抱えながら、最後は突拍子もないラストへ傾れ込む。
劇中に流れる音楽も中々絶妙に演出を盛り上げる。長山洋子の歌がこんなにも作品に華を添えるとは上手い演出である。それは、教師の娘が不治の病であるにも拘らず、好きなアニメアイドルに憧れ、踊る真似をしながら、突然気を失うシーン、又は父を驚かそうと買って貰ったドレスとステッキを持ってこれから正に踊りの披露をする際に流れるBGM。強い寂寥感と、居たたまれない程の辛苦感を放出させている。スペイン音楽との親和性みたいなものも同時に感じられるかなり作り込まれた秀逸な出来だと感心させられた。
内容的には『ファムファタール』ものなのであるが、そのサイコパスな展開、少女の夢を叶えたいばかりに悪へのめり込む教師、そして精神的に病む精神科医の妻と、その妻の学生時代の恩師の破滅的なストーリー展開。本当に何が次に起こるのか予想もつかない流れであり、まさか娘を撃つまでの猟奇的な展開は驚愕でありさえする。かなり気まずくなるので娘と観に行くような映画では決してないと、評論家町山さんの話に頷くことしきりである。
冒頭シーンの悪口が書かれたノートの切れ端、そしてラストシーンのスマホ。お互いに手品で隠し合うことで、この作品のカタルシスが完結するのであろう。