「教習所行こ!」森山中教習所 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
教習所行こ!
恋人・松田さんと別れ話の最中、免許を取ろう!…と思い立った大学生・清高。その夜道、車に轢かれてしまう。
運転していたのはヤクザの若い組員・轟木で、無免許だった。
組長命令で免許を取る事になった轟木。非公認の森山中教習所へ。
死んだと思われトランクの中に入れられていた清高もそこで目を覚ます。教習所じゃん、ラッキー!
轢いた当人とばったり会う事になるが、何と清高と轟木は高校時代の同級生で…。
お察しの通り、ユル~い作品である。
彼女と別れ話の最中でも自分本位。
車に轢かれたって、別に~。寧ろ、教習所に連れてきてくれて、あざーっす!
免許? 楽勝っしょ。
無気力、無感動。ノーテンキでマイペース。
確実にバカな奴だけど、何だか憎めない。
轟木くん、清高って昔からこんなんだったの…?
ところが轟木、清高をよく知らない。高校時代、一言二言話しただけ。
だから轟木にしてみれば、同級生。しかし清高にしてみれば、友達。
そう。そんな感じなのである。
フレンドリーな清高に対し、他者と関わるのが苦手な轟木。コミュ障…?
二人の温度差も違ければ噛み合わないやり取りにクスクス。
明と暗。動と静。全く正反対のキャラと演技の野村周平と賀来賢人のケミストリー。
ユル~い感じはこの森山中教習所も。
人里離れた山の中にポツンと。建物も練習用標識など備品もオンボロ。
一応受講する人はいるみたいだが…、何だか訳ありそう。
教え方もユルい。仮にも教習所だからテキトーとまでは言わないが、ユルい。
でも、先生のサキさんが美人。麻生久美子が魅力的。
いつしか清高はポ~ッと。
夏の終わりに何かやって、友達と再会して、恋をして、青春してるじゃん、俺!
教習所で振る舞われる食事。それを皆で食べる。
しっかり者の母親と清高にも負けないお気楽な父親。サキさんの両親もナイス。
何とサキさん、バツイチだった! 清高、ちょっとだけ落ち込み。わんぱくだけど可愛い坊や。
のどかな教習所や周りの風景、何かいいな~。
こんな教習所あったら行ってみたいなぁ…。非公認だけど。
別れた筈なのに元カノ・松田さんとちょくちょく会ってはドライブイン食事。そんな関係性もクスクス。岸井ゆきのも好演。
このまったりな作風も何かいいな~。
でも、ただのユルいコメディだけじゃないのがミソ。
根暗な轟木だが、ふとした時ヤクザの性分が出る。サキさんパパにいちゃもん付けたチンピラ受講生をボコボコに。
根っからのヤクザなのか…? 否。
施設育ちで行く当てもなく、何となくヤクザに。最近になって、仕事(ヤクザ)を辞めたいと思っている。
ノーテンキな清高だが、家庭は崩壊。こう見えて将来の事にも思い悩んでいる。
人生の壁にぶつかった二人。
互いの事や悩みを相談し打ち明ける友達ではない。
だけど何故か、高校時代に一言二言話した事を不思議と覚えている。
そんな二人が再会して…。今一度の短いひと夏の青春が始まる…。
晴れて試験に合格。
ちょこっとはしてたけど、実技らしい事や勉強らしい事してたっけ?…なんてのは野暮。そういうのがメインじゃないのは明白。
ヤクザを辞めたい轟木は清高と共に、ショベルカーで事務所や組長を襲撃。免許はこれの為…?
その夜、合宿みたいに枕を並べて。他愛ない雑談し、初めて笑顔を見せる轟木。
清高は一言二言話しただけでも友達だけど、轟木にも友達としての感情あったのかもしれない。でなければ、清高がチンピラにボコられた時、内々密にチンピラに仕返しなどしないだろう。
あのひと夏。友達と再会し、また別れ…。
三年後。
松田さんとヨリを戻した清高は、車に乗っての旅の体験を雑誌の連載コラムに。
久々に実家へ。踏切で停車していた時、対向車に…。
ヤクザを続けていた轟木。しっかり組長の専属ドライバーに。
あの襲撃の件、どうなったんだろう…? ヤクザの世界ならただでは済まないだろうに…。
踏切が上がり、両車がすれ違う。お互い、チラッと見たような、見なかったような…。
あの夏、確かに俺たちは友情を育んだ。
でも新たな車に乗ってアクセル踏めば、走る道は全く違う。堅気とヤクザ。
ユルい笑いとしみじみとした感動と切なさに、余韻が残る。
見る前はただのおバカコメディと思っていたら、なかなか素敵な青春ストーリーであった。