「伝える、伝わるって難しい」映画 聲の形 みずいろみなとさんの映画レビュー(感想・評価)
伝える、伝わるって難しい
限られた時間の中で原作の要所を上手くまとめた作品でした。
主人公である石田は昔ヒロインである西宮をいじめていました。しかしある日、虐めが学校にばれ、仲間だと思っていた友人達から虐められ、彼は人を信用できなくなります。そうして高校生になり、彼は周りのあらゆる声を聞くのを恐れ、耳を塞いで生きるようになってしまいます。
そんな時に彼は、西宮と再会し、彼女に贖罪をする事を通じて過去と、そして今と向き合います。
主人公は障害者をいじめると言う社会的にはかなり許されない行動をしたわけですが、主人公ものちに同じ虐められる立場になった事と、後悔の心情が丁寧に描かれていた事により、彼だけを責める気にはなりません。
この映画において主人公は「西宮と会話がしたかっただけ」で、その伝え方が分からなかっただけなのです。
最終的には子供の頃上手く伝わらない苛立ちから犯してしまった過ちを、主人公と西宮は互いに謝りあい許し、生きるのを手伝いあう事を約束します。
そこには障害も健常者も関係ありません。一人の人間として生きる為には、ちゃんと周りの声を聞こうとして、他者を受け入れることが必要なのです。
これは主人公と西宮の恋愛物語かというと、個人的には少し違う気もします。これは主人公が他人の声をしっかりと聞く事が出来るようになるまでの物語だと思います。
原作ではその他の登場人物にも一人一人丁寧に焦点が当てられていて、映画の印象だと少々嫌な奴だった植野などの心情もしっかり読み解けば理解できるような構成になっているのですが、尺の関係かその辺りは省かれていました。
こういった一人一人の声をしっかりと聞く事で全員に共感できるようにさせると言う原作のスタイルが好きだったのですが、この映画は本当に主人公の石田のみに焦点が当てられた構成。限られた時間なので仕方がありませんが、そこが少し残念でした。
それ以外は作画崩壊も見当たらず、声優さんの演技も素晴らしい。手話を多少は覚えて想像しないと二人の会話がわからない構成になっていて、視聴者からの登場人物への歩み寄りも求められるのも、作品のテーマの一貫性を感じる良い仕掛けとなっています。
人間関係にちょっと疲れてしまった方は、是非見て考えてみてください。
素晴らしい作品でした。