葛城事件 : 特集
長男はリストラで孤立、次男は死刑囚、母は精神崩壊、そして父は──
“最悪”だが“最高”! この《後味の悪さ》、やめられない、止まらない!!
2012年に「その夜の侍」で監督デビューを果たし、国内外で評価を集めた赤堀雅秋監督最新作「葛城事件」が、6月18日から全国公開される。三浦友和演じる狂気の父親を主人公に、崩壊へと向かっていく家族の壮絶な姿が描かれる。南果歩、新井浩文、若葉竜也、田中麗奈ら実力派がそろった「後味の悪い」傑作の誕生。映画.comが、独自の解釈で見どころを解説する。
「セッション」「ナイトクローラー」に続く“狂気の男”現る──
映画.com超・激オシの衝撃キャラクター:葛城清 in da house !!
生徒を罵倒して追い込んでいく「セッション」のサイコ教師フレッチャー(J・K・シモンズ)、スクープのためなら手段を選ばない「ナイトクローラー」のゲス報道カメラマン・ルイス(ジェイク・ギレンホール)。観客を不快な気持ちにさせつつも、「なんだこいつは!?」とどんどん物語へと引き込んでいく「狂気の男」たちに、新たなキャラクターが加わった。映画ファン要注目の衝撃的キャラクター、それが本作の主人公・葛城清(三浦友和)だ。
美しい妻と2人の息子、そして念願のマイホームと、思い描いた理想の家庭を築いたはずだったのに、気がつけば妻は思考停止状態、長男は自らを追い詰め、次男は無差別殺傷事件を起こして死刑囚となる。「俺がいったい何をした!」を被害者面して開き直っているが、すべての根源は、家族を抑圧し続けてきた自己中心的な清本人の振る舞いだ。関わり合いにはなりたくない、しかし一瞬たりとも目が離せない。最悪なのに絶対にハマる、そう、これが葛城清だ!
おかしいのは父親だけじゃなかった──
長男、次男、母、さらには次男の嫁までも超・異常! ここが変だよ「葛城一家」!!
「こんなヤツ、いる、いる!」と、ジワジワ染み出してくる狂気に観客がやられてしまうのは父親の清が筆頭だが、強烈な清に飲み込まれ、周囲の人々もまた徐々に異常な思考へ傾倒していくさまも恐ろしい。一見理想的な家族でありながら、清の抑圧的な支配が、長男を思ったことが言えず自分を追い込んでしまう人間に、次男を内面にドロドロとした憎しみを抱えた引きこもりに、彼らの母を無気力な思考停止人間に変えていってしまう。そうした状況は、やがて次男が無差別殺人を引き起こすという大きな悲劇を招く。ただでさえおかしかった葛城一家の生活はさらにすさみ、死刑囚となった次男と獄中結婚する「嫁」まで現れ、壮絶な事態へと突入していくのだ。
幼い頃から聞き分けのいい、よくできた子どもだったのが長男の保(新井浩文)。いい学校にいい会社、結婚して一児にも恵まれる順風満帆な人生を送ってきたはずだが、会社からリストラを言い渡されてしまう。次の職も決まらず、クビになったと家族にも話せず、毎日公園で時間をつぶす日々。苦悩を募らせた彼はどうなるのか?
「声優目指してるんです」「一発逆転するから」と、その場限りの思いつきで偉そうなことを口にしつつも、結局は親のスネをかじりっぱなしで働こうともしない引きこもりなのが、次男・稔(若葉竜也)。ごく潰し扱いする父・清や社会に対して募らせていく憎悪は、やがて大勢の人々を巻き込む無差別殺傷事件を引き起こしてしまう(稔の人物造形には「附属池田小事件」に加え、「土浦連続殺傷事件」「秋葉原通り魔事件」「池袋通り魔殺人事件」など、近年起きたさまざまな事件を参考に、実在の殺人犯に共通する生い立ちや性格が反映されている)。
母の伸子(南果歩)は、清の被害者でもあるが、葛城家を崩壊させたひとりだとも言える。清の支配下で思考停止してしまい、子どもをしつけることなく甘やかし続けた結果……。家族のために一切料理を作らない姿は、子育てに完全失敗した母親の姿そのもの。挙げ句、息子たちのてん末に精神崩壊するのも自業自得!?
突然清の目の前に現れて、なんの縁もゆかりもない稔と「獄中結婚しました」としれっと言いのけるのが、この順子(田中麗奈)。「死刑廃止の立場から、稔さんを救いたい」と、まばたきもせず告げる姿は、清のみならず、見ている者でさえ「こいつはいったい何者なんだ!?」と思わずにはいられない。果たして正気なのか!?
この《後味の悪さ》は、映画ファンにとって“最高の快感”
気軽におすすめできない! 覚悟して「葛城一家」の結末を見てくれ!
圧倒的で壮絶な悲劇であるのに、グッと心をつかまれたまま最後まで目を背けることができない。見た後は確実に心をヤラれ、打ちのめされてしまう傑作の数々。これまでにも「後味の悪い」映画は数多く生まれてきたが、本作「葛城事件」もまた、その系譜、それもグイグイと引き込まれ、映画ファンにとって最高の快楽となるのは間違いない作品だが、気軽に友人にすすめられる映画では決してない。この一家の結末は、覚悟して見ることをお願いする。
劇団「THE SHAMPOO HAT」の赤堀雅秋が、国内外で高い評価を得た12年の映画監督デビュー作「その夜の侍」(堺雅人、山田孝之、綾野剛出演)に続く、待望の第2作を撮り上げた。13年に発表され、新井浩文、鈴木砂羽の出演で話題を集めた舞台「葛城事件」に、さらにいくつかの殺人事件の要素を盛り込み、より人間の内面に潜む狂気とこっけいさをあぶり出すものとして映画化が実現した。自ら脚本も手掛けた赤堀監督も語っている通り、本作で描かれるのは、モンスターとしての殺人者ではなく、こういった現実が私たちの暮らす日常と地続きにあるということなのだ。
単純明快なエンターテインメント作は、スカッとする爽快感を見る者に与えてくれるが、いつまでも心に残り人生に影響を与えるまでの存在になることは少ない。だが、「後味の悪い」映画は、モヤモヤとした気分を観客に残し、「どうしてああなってしまったのか?」「結末は何を意味しているのか?」と自問自答せざるを得なくさせてしまうのだ。本作「葛城事件」は、スティーブン・キング原作&フランク・ダラボン監督の「ミスト」、リリー・フランキーとピエール瀧の殺人鬼役がおぞましい実録作「凶悪」、園子温監督の「冷たい熱帯魚」等、これまでに話題になった「後味の悪い」作品に続く新たな傑作だ。