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ヤクザ(金貸し)の親分が女性「母」なのは、日本映画だと有り得ないから新しい視点だった。
コインロッカーの10番に捨てられて、名前すら「10」と呼ばれて、両親の顔も知らず人生に「愛」という概念が存在しない主人公。
自分は「役に立つか?役不足なら死ぬ」という極論の中でガッツ全開で生き延びる日々。とはいえ、親分と子分達が住む家には愛はなくとも「情」が生まれていた。
幼い頃に、路地裏で死にかけてた犬を助けたい…と考えているうちに母は迷わず「苦しませずに死ぬ手助けをする選択」をして犬を殺す。ここで母の人生が垣間見える。人生に苦しみはたくさんあるから、せめて最小限に抑えたい、という自分の過去と照らし合わせてるんだろうな。悲しいけど、優しいやん。
でも子供には厳しい。
「役立たずなら殺す」と明示し続ける。
だが、これは『両親に捨てられ、住民票すら取れず、このまま生き続けるなら私の庇護下に置くなら、強くないと殺されてしまう、だから強く冷酷になれ、生きろ』という母の情なんだろう。
ある日、めたくそ借金して逃げた父親を純粋に信じて、料理人として真っ直ぐに生きる青年を取り立てることになる。
「貧乏は悪いことじゃないから取り立てからは逃げない」という言葉には、イヤイヤ逃げようぜ!!と思わず呟いちゃったけど、そんな青年にパスタをご馳走されたり映画に連れられたり、自分には縁遠いことを経験していく。
徐々にまともな感覚を取り戻していく我が子を見て母は「裏切り」と感じたわけじゃなく、「強くないと生き延びられない」と感じたんじゃなかろうか。
それか自分にも同じ経験があって、裏切られたり仲間にリンチされたり、同じ目に遭わせたくない、と考えての指示だったんじゃなかろうか。
愛を知らない母は、子供に愛を注ぐことはできないし、自分が受けた事と同じことをしてしまう。
けれど、長年一緒にいるうちに「情」が双方に生まれていく。
「母ではないけれど生きていてほしいとは思っているよ。」と素直に言えず、病気で長くないであろう自分が衰弱して組が崩壊するよりも『主人公に自分を殺させて、主人公の箔をつけさせて組織の上に立ち生き延びるように仕向けた最後』も、悲しくて優しくて、あんたはちゃんと母になったね…と呟いてしまった。
焦点が曖昧っていうレビューが多かったけど、女は2つの人生(女性性と母性)を生きる、っていう話が根底にあるいい作品に見えた。
女性の方が色々考えさせられる作品なのかもな。