「深淵」ボーダーライン(2015) たまさんの映画レビュー(感想・評価)
深淵
2016年日本公開作
今現在でも続くアメリカ、メキシコひいては南米を含む
麻薬戦争を描いた傑作。凡百のアクション映画と思って観ると頭が火傷する。
FBI誘拐即応班ケイトが、麻薬特別捜査官マット率いる麻薬捜査に招集されそのミッションに就く。そこは法をも超越する戦場だった…。
凄まじい映画である。
毒をもって毒を制する、という言葉があるがそれが陳腐に思える描写。
作品を通底しているのは、正義とは?悪とは?理想とリアルの衝突。ケイトは一般人をも巻き込む超法規的捜査、違法捜査、脱法捜査のボーダーの中、何が信じられるのか。捜査チームさえ信じることが難しくなり苦悩を深め、疲弊していく…
監督ドゥニヴィルヌーヴ。脚本テイラーシェリダン、
激しい銃撃戦、遺体の山…
アクションスリラーとして麻薬戦争を描きながら、人間存在の深奥に迫ろうとするシナリオが秀逸。
冒頭からラストに至るまで、緊張感が途切れることはない。
ドラマチックに撮られた物語ではなく、麻薬捜査、戦場に観客をおとしこむ。
これがかの国の麻薬戦争の最前線なのだろうか。
ケイト演じるエミリーブラント。苦悩、疲弊しながら激しいアクションもこなす。映画オッペンハイマーの妻役も印象に残る。
特別捜査官マット演じるはジョシュ・ブローリン。善悪の狭間ボーダーライン上を、達観したかのような存在感で演じている。
最も謎めいた圧倒的濃縮度でインパクトを残すのは、捜査チームのコロンビア人アレハンドロ。演じるはベニチオ・デル・トロ。
同じく麻薬戦争を様々な視点から描いたS.ソダーバーグのトラフィック、でアカデミー賞を受賞。
ラストに至り、捜査自体の真の目的とアレハンドロの宿命が観客を待つ。冷徹に捜査殺人を重ね、メキシコ麻薬カルテルの黒幕に対峙する…。
ヒリヒリする緊張感をラストまで持続させ、深い余韻を残す。現在でも、アメリカ、メキシコ麻薬戦争は終わっていないという。
今であれば、中国が原産といわれている合成麻薬フェンタニルか…
ロジャー・ディーキンスの撮影も見事。壮大な空撮、銃撃戦の俯瞰ショット、激しいカット割りだけでなく長回しで撮るアクション。人物心情を深く撮影するショット
アメリカ、メキシコの荒涼とした風景が殺伐とした物語を描写する。
哲学者ニーチェの言葉を思う。
深淵を覗く時 深淵もまたこちらを覗いているのだ
怪物と戦う者は、戦ううちに自分も怪物とならないよう用心したほうがよい、と。
Mさん
いつもレビューよんでくださり、ありがとうございます。
この作品、とてもカタルシスを感じるものではないし、シビアな映画ですが自分は数回観てます。
いつも、ニーチェの言葉を考えてしまいます。