「「父ちゃん、サッカーやろうよ」」ボーダーライン(2015) kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
「父ちゃん、サッカーやろうよ」
あるメキシコの家族の風景が時折挿入される。サッカー好きの少年が父親と一緒に遊びたがっていて、お母さんは黙って料理をする。その父親がどこかで本編の重要な場面で絡んでくるハズだと期待していると、意外なところであっさりと・・・と、何だかここだけでも悲しくなってきた。そんな悲哀が必ず生まれてくるほどの野獣都市ファレス。
ちょいと正義感が強すぎるFBI誘拐即応班のケイト・メイサー(ブラント)。冒頭のアリゾナ州での奇襲作戦でもカッコよく銃撃戦を制してみせたり、仲間たちが死体の束を見て嘔吐しまくる現場でも平気な顔をして気丈な性格をみせる女性だ。そんな彼女の腕が買われてメキシコの麻薬カルテル撲滅の任務を帯びた特殊部隊にスカウトされる。
怪しい。怪しすぎるほどの特殊部隊。そこのサンダル男マット(ジョシュ・ブローリン)はCIAなのか国防総省直属なのかもはっきりしないし、部隊には刑務所から仮出所している者もいるくらいだ。そんな中、物静かで何を考えてるかもわからないアレハンドロ(ベニチオ・デル・トロ)も不気味だ。そんなアレハンドロの経歴もメキシコで検察官をやってた事実や、ケイトの相棒であるレジー(ダニエル・カルーヤ)も法律の学位を取ってることから、正義や法律順守といったものまでテーマとなっている。
実際は麻薬カルテルを“混乱させる”ことが彼らの任務。そこには仲間の動きさえ把握できない作戦、自由射撃、超法規措置といった、一般人から見ると善と悪との区別さえつかなくなるような部隊だったのだ。そんなところにマネーロンダリングを追及しようと正義の盾を振りかざすケイトが入ったもんだから、彼女さえオトリとされ、一味を捕らえようとする。すでにアメリカとメキシコの国境地帯は戦場そのものだったのだ。
後半のメインになるのはアレハンドロの復讐劇。混乱させるという名目なんて、もはや彼の視界には入っていなかった。カルテルのナンバー3と言われた男に妻と娘を殺された復讐の狼。そこにたどり着くまでには汚職まみれの警官だって無慈悲に殺していくのだ(サッカー好きの息子がいようがいまいが関係なしだ)。さすがに屋敷のメイドだけは殺さなかったところに人間性が残されていた気がする。
ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督作も何本か観てきて感じたのは、重厚な自然を背景にして、人間がいかに小さいものだということを表現しているとこと。レフ版を使わず(実際は知りませんが)に陰影をわざとらしく映し、露光を高めにしているような、独特の色彩があります。また、重低音で体に訴えてくる音楽というよりシンセノイズ。あまり多用されると眠くなってくるのが欠点かもしれない・・・