バンコクナイツのレビュー・感想・評価
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タイに滞在する非合法な日本人達が描かれています
バンコクの歓楽街で働くラックが主人公で、非合法な仕事で滞在中の様々な日本人が描かれています。タイの雰囲気が充満するなかでインドシナ戦争の爪痕や麻薬、犯罪等がバラバラに描写されますが、日本人の嫌な部分がこれでもかと続きます。タイは仏教が身近なことも分かりやすく描かれ、伝統的な音楽や現代の音楽が多く流れて3時間を越える作品ですが短く感じました。
行間を読ませる作り方なので疑問点は有りますが、観客の感性で様々に解釈することを監督が望んでいると思います。タイの俳優の日本語のセリフが聞き取り難いので少し減点しますが、何度も観たい作品です。
なんかスッキリした
大分主観ですが。映画館に入った瞬間、私以外はみんな男性だったのがゾッとした。
タイの娼婦の話、無理もないのでしょうか。そんな状況的要因も映画を楽しませるスパイスでした。
ストーリー性を言及すると稚拙な作品と言われるかもしれません。
しかしこの映画は物語は脇役です。現地で生きる人々のくらしを、ごく淡々と描き突きつけていました。仮初めだからこそ楽園になり得る。そもそも華やぎしか見ないからこそ楽園に見える。
それに、多くの男性観客は3時間と3分の間、期待を生殺しにされたのではないでしょうか?
最後の最後、濡れ場っぽいシーンがありました。
やっときたぞ!周りの観客が息巻いた次の瞬間、女が男を殴りつけお待ちかねのそれは不意にあっけなく終わってしまいます。
ざまあみろ!なぜだかそう思いました。
楽園の舞台裏は地獄だということをまざまざと見せつけられ続け、さいご気休めの望みが濡れ場にかけられていたも…
タイに行ったことがある人なら分かるあの鬱蒼とした混沌を根元から映すと同時に、観客の男共を肩透かしにして、いてもたってもいられなくさせるような心理作用がある意地悪な作品なのでは、と思いました。
以上のひねくれた?観方から、私は十分に楽しめました!
バンコクナイツは「ソイ48」の音楽活動の序曲である
他の評者が語るようにバンコクナイツは、長尺に渡る映画である。私は、ある種のエピソードの断片を積み重ねた結果、長くなったと思えたので、退屈を感じることなく楽しんだ。エピソードの中には、タイに何度も行ってタイ文化に親しんでいるトラベラーなら知っているような事実の断片が、ぶっきらぼうに提示されている。タイの伝説的左翼文学者チットプミーサックの文章や1973年学生決起クーデターに対する巻き返しの1976年のタンマサート大学虐殺事件後の学生や運動家のジャングル潜伏生活に関する言及と幽霊の話、ベトナム戦争から帰休中のアメリカ兵士とタイ人女性の間でできた子供の行方、アメリカ軍がベトナム戦争で補給を断ち切るためにラオスに落とした爆弾跡など、観客が戦争の歴史を知っていようといまいと説明されることなく、監督の俺達は知っているんだからねと、ちょっと嫌らしい形で提示される。
歴史を知らない観客は欲求不満になり、知っている輩は、「なんだ、インドシナの歴史のおさらいと戦争(大きな物語)後は、ただ後始末の生活だけがある」と言いたいのか、「ユートピア」と言っても切り口はデカプリオの「ビーチ」と同じだなと不貞腐れてしまうのは確かだ。
つまり、大きな物語(ベトナ戦争)の後始末のエピソードが3時間近くも上映されても、タイやインドシナを知らない観客には、迷惑この上ないものになるし、タイをよく知る観客にとっても、「タイにはよくこういうことはあったよな、ああ、おもしろかった」というヴァーチャル・リアリティー体験だけで満足してしまうことになってしまう。
ただ、映画自体は、観客を動かしてくれないが、映画に伴う様々な並行活動が観客を動かすという、ちょっとおもしろい現象は、すごく評価したい。つまり、モーラム楽団の招聘やモーラム音楽を日本に紹介している「ソイ48」の活動を言いたいのだ。ただし、映画の中でのモーラム歌手の扱いや仏門に入る得度式を川向うから撮った映像はあまり評価ができない。監督がモーラムはラオスに誘う媒体(つまり、ベトナム戦争跡、つまり、政治)だと考えているフシがあるからだ。こういう思考法は、昔の「帝国主義と植民地(富める者と貧しき者)」の思考のフレームを借りているように思える。
しかし、モーラムからタイ・イサーンへの旅を語る音楽ユニット「ソイ48」の活動は、違う。イサーン人の貧乏ながらの音楽に対する金遣いのあらさやモーラム音楽へのクレージな振る舞いを紹介する活動を通して、「そうしなければ生きていけないからそうするのだ」という、理解不明で意味不明な圧倒的なエネルギーをタイの音楽を掘ることで観客の前に放り投げてくれるのだ。それを聞く観客は、日本の民謡やインドの音楽、あるいは、その他もろもろの「過去」を探すことを通して、人生を旅するのも悪くない知れないと、自分の内部の疼きを久しぶりに感じることができる。
混沌の大作
前作「サウダーヂ」が大変良かったため、今回も期待していましたが、期待通りの混沌とした大作でした。
サウダーヂとは地続きの兄弟のような作品だと感じたので、以下のとても長い感想は主に前作との比較で物語ります。
サウダーヂに比べると、バンコクナイツは全体的に緩いが豊潤な作品だなぁ、という印象。ストーリーだけ追うと散漫でダラダラした感触ですが、ゆったりと作っているため、タイの営みや文化が生々しく描かれていて、なんとも言えない豊かさを感じました。バンコクの毒々しい煌びやかさには息苦しさを感じたものの、イサーンやラオスにはただただ感動してしまった。バイクを飛ばした後のノンカーイの朝焼けの美しさに言葉を失いました。
この豊かさを描くには、3時間は必須だったと思いました。
空族サーガの主人公たちは大抵「ここではないどこか」を夢想し、さすらいます。バンコクナイツの主人公・オザワも例外ではなく、自らの居場所を求めて彷徨っている男です。なんとなく自衛隊に入り、やがてなんとなくタイに来た。昔の女・ラックと出会い本気で愛するも、オザワは根を下ろせない。「ここではないどこか」を夢見る者は何かを選ぶことができない永遠の少年である。少年では愛を成就させる力がなく、オザワとラックは破局する。
前作サウダーヂの登場人物たちはみな彷徨い続けて迷子になっていたが、オザワはラックと別れた後、タイに根を下ろす。空族の主人公がついに大地に足をつけた瞬間であった。ラスト付近にオザワは銃を買い、それが何を意味するのかはっきりとはわからないが、彷徨う旅を止めることと関連しているように感じた。
楽園を求めても手に入らない。そんな虚しさや悲しみ。つながりのある世界を破壊してゆく大きな抗えない力への怒り、嘆き。でも抗う人間の姿が前作同様、本作品でも描かれている。
しかし、本作はタイの宗教的な雰囲気によって嘆きからの祈りも描かれているように感じた。モーラムの言葉を尽くせないほどの説得力と、その後のラックのこのシーンだけに見せる安息の表情は本作のハイライトのひとつで、震えるほどの興奮とともに、人知を超えた異界への畏れと祈り、自分を超えた存在に包まれる安らぎと癒しを感じた。タイの営みや文化を内包した映画だからこそ描けた出色のシーンだ。出家のときのカーニバルのような行進とか、なんと言っていいのかわからないけど深く心に刻まれています。
この映画を反芻すればするほど、いろいろな連想や複雑な情動が浮き沈みをします。バンコクナイツを観たことは、えも言われぬ体験でした。映画を観た、と言うよりも、映画を浴びた、という感覚です。
【空族の映画についての感想】
空族の映画は基本的に群像劇な上に、プロではない役者が出演者のほとんどを占めるため、とっつき辛いところはあるが、それを乗り越えるとクセになる魅力に満ちている。
サウダーヂもバンコクナイツも1〜2回観ただけでは消化しきれないボリュームなので、折に触れて何度も観ていくタイプの映画だと思う。空族映画はロードショウの間だけではなく、今後も様々なイベントや次回作のタイミングの時などに上映されるだろうし、その時々にサウダーヂやバンコクナイツをまた観て、新たな発見や湧き上がる感情を噛み締めてゆくものではないかな、と思っている。
タイの『ヤホー』とは全く関係無いです
「サウダーヂ」の富田監督の手懸けた作品。とはいっても観たことはないのだが、菊池成孔氏が以前紹介していたので、それなりに興味は持っていた。地方の南米日系の人達の話ということで、その地域の公然とした問題を鋭く描くというテーマは、正にそこに生きる人々の本音と建て前をあぶり出す映画としての題材に持ってこいの作品なのだろう。
そして、今回のバンコクナイツはそれのアジア版という位置づけという認識を持った。但し、今のタイの状況はどうなのかさっぱり不勉強であり、そういう意味でも今回の作品、楽しみであった。
確かに、混沌としたアジアの世界が描かれている。そして、急激な近代化、しかし地方との格差、そして植民地支配は終わったが未だに西洋人や日本人の欲の捌け口としての任を甘んじて受容れてしまっていること、しかしそこは逞しく生きるタイ人のしたたかさを演出している内容に仕上がっている。その中に、幽霊や聖獣、そして仏教など、ファンタジーや宗教観なども織込みながら、娼街で働く女、それを利用とする男の生き様を静かに観客に訴える様に物語を進めていく。
ともすれば、公共放送のタイ紀行特集みたいな内容になりがちな部分も否めないが、そこに軸足を置かないことを成し得たのが、皮肉にもキャストの芝居や台詞回しの下手さであるところが大きい。もっと上手な役者がいるだろうし、主役のタイ女性に至っては、脱いでもない、濡れ場もない。バイオレンスやセクシャルは殆ど描かれない。但し、『ドラッグ』のシーンは多い。伏線の回収もあまり上手く繋がっていないとみてとれたし、最後辺りでもう一人の主役である、元自衛官が45口径拳銃を買った後、結局その後の使用も描かない
結局ラストのオチはよく分からないまま、エンドロールで、撮影中のNGなどを流してしまう辺りは、意図が全く読めず戸惑いが残る内容であった。これを3時間もの上映時間を費やす意図も不明で、かなり哲学的なテーマなのかもしれない。ま、一生タイには行くチャンスなどない自分としては、異国の人達の唯では起きぬしたたかさを再度確認した内容であった。
日本では珍しいアウトローなロードムービーの傑作
近年のインディーズ邦画作品の中で白眉。劇中で使われるイサーンミュージックとStillIchimiyaクルーによるEDM/HIPHOPも素晴らしい。ストーリーも非常に分かりやすく、かつ説明的ではない展開でありながら深みを感じさせる。イサーンの森のレジスタンスの霊、爆撃の爪痕、富めるものと貧なるもの、男と女のコントラスト、戦争、ドラッグ、売春…いろんな要素を突っ込みながら決してToo muchではない。特に若年層に進めたい一品。
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