「生き延びようとする人間に立ち会わせてくれる」レヴェナント 蘇えりし者 deep1さんの映画レビュー(感想・評価)
生き延びようとする人間に立ち会わせてくれる
この作品を観ているあいだ、物語を追ったという感覚はほとんどなかった。
「敵討ちの話を見ている」というより、
“生き延びようとする一人の人間に付き添わされている”感覚に近い。
説明や感情の誘導がないことが、逆に胸に迫ってくる。傷の痛み、息が切れる音、凍りつく空気、眠気と飢えの重さ――それがどれほど苛烈か、語られない分だけこちらの身体にまで響く気がした。
あのアグレッシブな描写はショックのためじゃなく、“生きることがどれだけ残酷か”を押し付けずに理解させる力を持っていた。
自然も同じだった。絵葉書のように美しく見せようとしない。
ただそこにあるのは、川、雪、風、太陽。
優しさとも救いとも関係なく、誰にとっても公平で、冷たくて、圧倒的だ。
ときどきふっと温もりが混ざる瞬間がある。
その小さな温度の変化の方が、言葉より深く刺さってくる。
この映画の人物たちは、自分の気持ちを説明しない。
怒りも、後悔も、執念も、愛も、赦しも、
全部、語るのではなく存在で表している。
こちらが言葉を添えないと理解できないような演出は一切ない。
だからこそ、自分の中に何が生まれているのかを
自分で確かめながら観ることになる。
ラストの表情に「何を意味しているのか」を探したくなるけれど、映画は答えを教えようとしない。
救われたのか、救われなかったのか、復讐を果たしたと言えるのか、本当に失ったものは何か――
全部曖昧なまま終わる。
でも感情だけは身体に残り続ける。
観終わってもスッキリしないし、整理もつかないが、しばらくして静かな時間にふっと胸が痛んで、そのとき初めて「この映画を観たんだ」と実感する。
思い返すたびに少しずつ沁みてくる“旅の記憶”みたいな作品だった。
これを傑作と言わずに何と言うのか、正直わからない。
