「「vs自然」。」レヴェナント 蘇えりし者 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「vs自然」。
⚪︎作品全体
物語はシンプル。主人公・グラスが息子を殺され、その復讐を目指す。
復讐劇には復讐を成し遂げるまでの障壁と苦難がつきもので、そこは本作も同じだ。しかし本作が普通の復讐劇と一線を画すのは、復讐すべき相手との対峙より、そこに至るまでに立ちはだかる「自然」との対決に時間を割いていることだろう。
相手が人間でない以上、何度払いのけてもすぐにまた襲ってくる恐怖がある。熊に襲われたグラスがようやく体を動かせるようになっても「飢えとの対峙」があり「寒さとの対峙」がある。原住民族が追ってくる脅威は「対人間」だけど、自然との戦いが常時ある。通常の物差しでは測れない自然という強大な敵が、シンプルな物語に大量の困難を降り注ぐ。その説得力は「対人間」では描けないものだ。
その強大である自然の映し方もまた見事だった。
広い空と聳え立つ山、見ているだけで寒くなってくるような雪と氷、川。多くの場面で聞こえてくる水の音や木の軋む音。静寂や安らぎをイメージする一方でグラスを吸い込むように取り囲む威圧感もある。時間を使って映すことで、一生抜け出せないような恐怖に息を呑んだ。
作品によっては環境映像のような印象になってしまう映し方だけど、グラスの一刻を争う過酷な状況を映すことで「広大であることの恐怖」を作り出し、静かに流れる自然の時間とグラスの状況を対比的に演出していた。
その中でグラスの逞しさを感じるのは、単に卓越したサバイバル技術だけではない。亡き妻の「力強く根の張った木を風は倒せない」という言葉のとおり、悪天候の中でもそびえ立つ木々と重ねる演出があったからだ。
例えば作中で何度も映される木々のあおりショット。木々とその先にある空を大きく映せるあおりの構図は特に珍しいものではないが、妻の言葉が前提にあると、様々な天候の中でも立ち続ける木々に強いメッセージを感じた。嵐で枝が折れようと、雪をかぶって葉を落とそうと、木々は力強く立ち続ける。生きている限り再び枝葉を生やすことができる…そういった力強さがグラスにも宿っているように見えた。
そういった静かな生命の強さの演出として、呼吸があった。「息をし続けろ」という妻のセリフも印象的に使われていたが、その「息をし続ける」表現として、カメラのレンズを曇らせるグラスの吐息が使われていた。広く雄大な景色を映す作品だが、グラスの吐息も同じように画面に強く影響を与える。そのことを強く意識させる演出で、そのアイデアが素晴らしい。
復讐を果たしたグラスは再び瀕死の様相になるが、自然に勝ち、仇敵・フィッツジェラルドを倒したグラスの姿はむしろ逞しい。フィッツジェラルドの遺体を果てなく流し続ける川とそこへ引きずり込まれたような血痕を映すラストは、自然の強さの証左だ。
自然の過酷さとスケールの大きさを見事に描ききっていた。
◯カメラワークとか
・序盤で原住民族が襲ってくるシーンは『バードマン』で強烈な印象を残したイニャリトゥ監督の長回しが炸裂していた。入り乱れる攻防をカット割りで整理することなく、次々と見せていく緊張感が素晴らしい。川沿いの洞窟で休むグラスに接近する原住民族のシーンもそれぞれの立ち位置を1カットっぽく映すことで緊張感を途切れさせない。
◯その他
・グラスの過酷さに息を呑む。瀕死の状態から白骨化した動物の死骸の隅から肉をあさる姿、馬の死体の中で一夜を過ごす姿、生肉を貪る姿。どれも鬼気迫る。
生きることを諦めてしまいそうな状況でさえ、文字通り「もがく」グラスの姿には励まされるところがあった。