「「役者バカ」ディカプリオの魂の演技」レヴェナント 蘇えりし者 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
「役者バカ」ディカプリオの魂の演技
瀕死の怪我を負った男が、山中で仲間に我が子を殺害された復讐心から、いやもはや「復讐心だけ」で生還し、たった一人で雪山の中をサヴァイヴする。前半の1時間ほどはセリフも語りもあるものの(寡黙なディカプリオと雄弁なトム・ハーディという対比が効いていた)、多くはディカプリオの一人芝居からなるこの映画は、セリフもごくわずかなものに限られ、サヴァイヴァルする男の姿だけでドラマを構築する。そして、ディカプリオという役者バカはこれを完璧なまでに演じ切る。
彼にとってセリフなど必要ではない。いっそストーリーさえ必要ない。肉体と呼吸と表情のすべてを尽くして、役柄が体の内に抱え込む怒りと悲しみと復讐心と痛みと興奮のすべてをスクリーンに表出し、刻印のように焼き付けていく。ちょうど同年公開の映画で、一人で奇跡の生還を果たす映画がもう一本あった。しかしそちらよりも更に生々しく血腥く汗まみれ糞まみれの生還が「レヴェナント」では描かれる。それをディカプリオは体当たり以上のぶつかり方で表現する。「演技」という言葉の意味を改めて考えさせられるほどの熱演。2時間半の長い映画でありながら、しかも後半はセリフ数も一気に減る中、むしろセリフのあるシーン以上にディカプリオの一人芝居こそがドラマティックで引き付けられてしまう。
しかし映画は何もディカプリオの演技だけに頼ったものであるはずがない。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは前作「バードマン」でも撮影の技巧的な部分で才能を見せていたが、今回も彼の演出と撮影技術の面において驚愕する部分が大きい。「バードマン」での映像がいわゆる「技巧的」であったのに対し、「レヴェナント」で見せる演出は「技術」よりも「生々しさ」を感じさせるものになっている。
演出・演技・映像・音楽・・・あらゆるものがすべて高水準で、復讐に燃える男の「生」への強いこだわりと、時折感じる悲哀が、実にたまらなくて、もう天晴れとしか言いようがなかった。
降ってくる雪を食べる、わずかな微笑みのシーンも印象深い。
復讐を糧に生きる男の姿を通じてイニャリトゥが描きたかったものは何か?と考えたとき、まさか親子愛の話ではないし、まさか命の尊さでもない、広大な自然の勇ましさでもないし、苦しみを乗り越える強さでもないと気づく。ラスト、復讐だけを支えに生き延びた男が、その復讐心を手放す瞬間に最大のドラマとカタルシスが訪れ、答えを見たような気がした。