「原点回帰、それは存在意義を証明すること」クリード チャンプを継ぐ男 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
原点回帰、それは存在意義を証明すること
1976年製作の『ロッキー』から約40年、『ロッキー・ザ・ファイナル』から9年。「新章、始まる」と銘打ったスピンオフ作品『クリード チャンプを継ぐ男』。
第1作のロッキーは、最後まで、リングに立ちつづけることで、彼の存在意義を証明した。
そして、今回は、第1作でロッキーと闘い、第4作でリングで散ったチャンプ、アポロの息子アドニスが自身の存在証明を示す。
保険会社の主任の地位を蹴り、プロボクサーを目指し、ロッキーに教えを乞う。
プロ初戦で勝利した後、暴力沙汰で進退窮まった英国のチャンプの当て馬試合相手に選ばれると、後半は第1作をなぞるような展開になっていくが、脚本も兼ねた監督のライアン・クーグラーは、よほどオリジナル作品が好きで、敬意を表していることがうかがえ、好感が持てる。
監督は、オリジナル作品のもっとも良いところ・善いところを、40年経って蘇らせようとしたのだ。
オリジナルのロッキーは名もなき男。
それに対してアドニスは、「親の七光り」で脚光を浴びただけのアポロの亡霊・虚名の存在、自身に実体がないのではないかと自分を疑っている。その実体がない男が、自分の存在の意義を意義を証明するために、リングで闘うのである。結果は推して知るべしであるが、虚名の自分に克ち、自身の実体を取り戻す。この結果、わかっちゃいるけれど泣ける。
そして、オリジナルに敬意を表しているだけでなく、一段上にいくぞ、のような気概も感じる。それは、アドニスの第1戦のファイトシーン。このシーン、はじめのゴングが鳴ってから決着がつくまで、1カットで撮っている(ようにみえる)。ここは文句なく素晴らしい。
それに、歳を重ねたロッキー、シルヴェスター・スタローンも人間の深みが出て、これまた素晴らしい。
ただし、もったいないのはエンディング。試合のカタが付いたあとのリング上でのインタビューなどは、現実ではそうだろうけど、蛇足。ここがスキッと決まっていると、感動はもっと高まったのに。