「漫画時空の超越に挑む」セトウツミ とびこがれさんの映画レビュー(感想・評価)
漫画時空の超越に挑む
此元和津也による原作は、私史上一番好きな漫画です。何度読み返してもめちゃくちゃ笑います。言葉が見事なのはわかるんですが、それだけでなく台詞と台詞の間の時間の流れまですべて練られているような印象を受けます。
とは言えそちらを褒める場ではないですね。映画ですが、原作の方が面白かった。
やはり俳優がセトとウツミになりきれなかったところでしょう。どんな作品でもそうなんですが、セトウツミは特殊すぎた。普通の作品は物語に一貫するテーマや見せたいものがあって、そのために演者から衣装、場面、音楽、背景、全てを使ってそのテーマを訴えかけます。漫画原作を実写化すると演者の見てくれは絵から実在の人へ変わりますが、別の素材で同じテーマを訴えかけているだけなので、同じタイトル同じ物語をまた別の素材で見られる楽しみがありますね。
しかしセトウツミは、この二人のキャラと関係性とやり取りと、つまりこの二人が見せたい全てなんですね。そして見せ方において、原作は非常に完成されていました。だからどこをどう変えても難しい、もっというと音楽すら余計な気がしてしまいました。多分これ、アニメ化でもうまくいかないと思います。町田康さんの小説が小説でしかあり得ないように、セトウツミもまた漫画でしかあり得ない。基本的にとある人間ドラマを描写したものは、小説と漫画と映像と互換性があるのでしょうが 、その表現を極めて個性になっているものについては互換が難しくなるのでしょう。
それからウツミの一々長い台詞、読むのに精一杯という感じでしたね。声に出して読み上げるとこんなにくどいのかと驚きました。では原作ではどうだったか思い出してみると、ウツミの(セトもだが)台詞中は、時間の流れが止まっていたように思う。歩きながら喋っているはずの台詞、例えばスロベニア~なんかも漫画では、絡んでくる同級生に一言で切り捨てるように言い放っているような表現です。その意味で現実における時空を超越して編集された漫画という媒体の極致における作品だったと、改めて気づかされる思いです。
けどこの傑作の映像化に挑んだのは素晴らしいし、私も観ていて寒いとかは全然なくて、ずっと楽しかった。観ていて楽しいなら、いい映画です。