「豊かな時間」セトウツミ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
豊かな時間
監督をはじめとする方々のトークイベント付き上映会で鑑賞。
そのトークでも、コントと映画の狭間が話題になっていたが、本当に微妙な匙加減。これがお笑いタレントのアドリブもどきのグダグダで撮られていたら、観るも無残なものになっていただろう。
話すだけ、でもそれだけで成立している、稀有な映画。
高校生男子のぐだぐだな放課後ライフ。
だが、これほど濃密で豊かな時間があるのだろうか。
予告や配信されている特報・ポスターから想像する二人の関係性には軽く裏切られた。幼馴染の腐れ縁だと思っていた。
幼馴染ではないところの、瀬戸と内海の関係性がどうなっていくのかという緊張感。
話の顛末がどこに飛んでいくかわからない、情があふれ出る瀬戸。
論理思考で達観というより世の中舐め切っているようにみえる内海。
この二人の会話がなぜか続いていくのが面白い。
(そこを端的に示すエピソードから入る構成もすごい。原作のどのエピソードを映画化するか、練りに練られているのだろう)
家族背景が見え見えの瀬戸、対して内海は家族がいるのかと思ってしまうほど、家族が見えない。
そんな二人が抱える問題点も絡みつつ、話が展開する。そこがコントとは違うのだろう。
そして、話を重ねるごとの内海の変化。内海の、瀬戸との関わり方が、映画が進むにつれて変わってくる。ああ、内海の成長物語でもあるのかと思う。これもただのコント集ではなく、映画として成り立っている要因なのではないか。
演技派として安定感のある演技を見せる池松氏。勢いにのっている菅田氏の二人の掛け合いが絶妙。
ラストの缶紅茶の渡し方は、池松氏のアイディアだそうだ(公開時の監督ティーチインで聞いた話)。
なんでそうやって渡すかなと大爆笑。内海の気持ちがこそばゆい。
あのラストで鑑賞後感がまったく変わる。
凄すぎる。
正直、樫村さん・エピローグはいらないと、初見では思った。ちょっと説教臭いと思った。その時間があるのなら、瀬戸と内海を観ていたい。
でも、何度も観ているうちに、樫村さんが地団駄踏むからこそ見えてくる、女子への女神的イメージがちらつくも、この二人の間に生身の女子は入れない…これぞ、思春期だよなあとこそばゆいおももちが増した。
なんという、練られた展開!
そして、そのエピソードを区切るあの楽曲が、瀬戸と内海の青春に、華と諦めと言うか哀愁を添える。
自由なようでいて制約のある人生。制約があるようで自由な人生。
映画としてもお金を払ってでも観る価値があるが、
かってのウルトラファイトのように15分程度の番組として、いつまでも観ていたい。
と同時にDVD等で永久保存版、時折ブランデーをたしなむかのように愛でたい映画。
㊟予告には本編と同じ場面ありますが、特報で流れているエピソードは映画にはない。特報や予告を観て、観た気にならないで。
(漫画・ドラマ版未見:役者が違うから怖くて見られない…)