「ミスリードが呼び覚ます先入観の落とし穴」ザ・ギフト 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ミスリードが呼び覚ます先入観の落とし穴
この映画はまずキャスティングが完璧。物語が表現したいことを体現するのに、ジェイソン・ベイトマン、レベッカ・ホール、そしてジョエル・エドガートンという2人の配役はパーフェクトで、このキャスティングだけで設定の説明がついてしまうほど。そして三者三様の個性とパブリックイメージを完全に利用して、巧みなサスペンススリラーが紡がれていく。ジェイソン・ベイトマンが映画の中にいれば、観客は何を思うか、そしてジョエル・エドガートンが映画の中にいれば観客は何をイメージするか、レベッカ・ホールも同様に。そういった観客の先入観やもっというなれば人が人に対して抱く偏見のようなものを利用した上で成立させた物語であるため、少しでも観客の抱くイメージを読み違えれば物語の筋が合わなくなってしまうところを、脚本家としてのジョエル・エドガートンは一切読み違うことなく、観客の抱くイメージを物語の中に取り入れる形でストーリーを展開させるという技巧をやってのける。正直この映画で製作・監督・脚本・出演の4役を果たしたエドガートンだが、この脚本の筆力に一番驚かされた。脚本の中に、「観客の目」という登場人物がきちんと存在して感じられるくらい、映画の受け手が視野に入った脚本。これってすごいこと。
物語の中においても、人が人に対するイメージや先入観に惑わされ、事実が事実に見えなくなったり、思い込みで早合点をしたりという様子を鋭く描き、そこを切り込んでいる。物語はごく普通の恵まれた夫婦のもとに、突如奇妙な男が狙いを定めるスリラーとして始まる。しかしそれは、観客の勝手なイメージから見た事実でしかない。人が自然と抱く思い込みが、見え透いたはずの真実を歪めて捉えてしまう怖さ。人が人に対して抱く先入観やイメージの鎧を一枚ずつはぎ取っていくと、ようやく真実に近づくことが出来、そうした時に気づく自分の目の曇り。この目は確かにものを見ているはずなのに、見たと思ったものしか見ておらず、見たつもりになって見ていないものを見たと信じ込んだりもしてしまう。そういうことを、この映画は観客に仕掛け、挑むようにして物語にする。一歩間違えば大失敗。でもジョエル・エドガートンは見誤らなかった。巧い。
これはきっと、映画が好きで、ジェイソン・ベイトマンやレベッカ・ホールそしてジョエル・エドガートンの作品を多数見て、よく知っていると自負する人であればあるほど、この映画の秀逸なミスリードに嵌ってしまうだろう。そしてそういう人の方が、この映画を楽しめるだろうと思う。