「どちらに感情移入するのか」ザ・ギフト SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
どちらに感情移入するのか
話自体は文句なく面白かった。
開放的すぎる新しい家と、不気味な隣人、というのは妙に現代的でリアル。
演技も言葉にできない複雑な感情が表現されていて秀逸だと思った。
ただ、途中で話が読めてしまって、終盤があまり衝撃的に感じられなかったとこが惜しい。
犯人の作った映像にあまり過激なシーンがなかったということもある(過激なシーンがなかったからこそ、この映画は面白い、ともいえるんだけど)。
犯人が良い人に見えすぎてしまって、怖さが半減したということもある。彼が心底の悪人にはどうしても見えないことで、「やったのか?やらなかったのか?」に対する答えが出てしまっているような気もする。
この話を、一部の裕福な人間と、大多数の貧しい人、という現在の社会から観た時、どちらに感情移入するのか、ということが問題になる。
裕福な人間はこの映画を観て恐怖するだろうし、貧しい人間はすっとするかもしれない。
この映画の物語は、まるで社会の縮図のようだ。
資産家の中には、モラルに欠けているからこそ資産を築けた人もいるだろう。そして心に深く罪悪感を抑え込んでいる。彼の1番の弱みは、悪いことをしてしまったが故に、悪いことをされてしまうかもと、恐怖し続けなければならないことだ。
また、主人公カップルの対立は、1人の個人の中の意識と無意識の対立(葛藤)を観ているようでもある。
男は、過去のことを過小評価しようとやっきになっており、過去を押し込めたり、正当化したりする。これはいわば意識の働きだ。女(無意識)は、過去を見てみぬふりができない。これが問題なのだと、うるさく男(意識)に対して危険を警告し続ける。意識ははじめは言葉で無意識を抑え込もうとするが、そのうち力で押さえ込むことはできなくなる。
犯人が犯行に及ぶ時、猿のお面をかぶっているのも象徴的だ。これは、怒りなどの原始的な衝動を表しているのだろう。