「劇中で語られていない部分の想像を掻き立てられる作品」永い言い訳 Sasukeさんの映画レビュー(感想・評価)
劇中で語られていない部分の想像を掻き立てられる作品
本木雅弘さんを筆頭に、自然でリアルな演技に終始惹き込まれました。まるで現実のドキュメンタリーを見ているような会話のやり取りに、役者さんたちの力量を感じました。
また、タイトル通り、映画の中ではエピソードとして取り上げられていない場面や劇中で亡くなった2人の生前の様子を、他のキャラクターの発言などから想像させてもらうことのできる、奥行のある作品と感じました。
例えば、主人公幸夫に対し「もう愛してない。ひとかけらも」という衝撃のメッセージを遺していた夏子ですが、生前大宮一家と交流した際には、幸夫のことを「幸夫くんがね、幸夫くんがね。」とたのしげに話題に頻繁に出していたのではないかと私は想像しました。
でなければ、陽一が初対面であれだけフレンドリーに「幸夫くんだよね!?」と親しみをもって呼びかけ、「会いたかった人にようやく会えた!」というような接し方はあの場でなかなか難しいのではないかと思ったからです。子ども達が懐くのにそう時間がかからなかったことからも。親友のユキには夫婦間の悩みなど打ち明けていたかもしれませんが、少なくとも陽一や子ども達には幸夫についてポジティブな印象しか与えていなかったんじゃないかな〜と想像しました。
だからこそ余計に衝撃のメッセージの真意はわかりませんが、おそらく本当はまだひとかけらも愛していなかったわけじゃないのではないかと私は思います。ひとかけらも愛していなかったのならわざわざ携帯に文字を入力し保存することすら手間に感じるかとも思いますし...。
また、はじめて幸夫と大宮親子で外食した際、灯がアナフィラキシーショックを起こしてしまった場面では私も本当に不安になりました。「お父さんエピペン持ってないの??」としっかり者の長男が言うと、慌てふためく父親の姿に目を覆いたい気持ちになりました。
ユキの生前は、家族で外食の際は真っ先に気をつけていたことでしょう。娘の命に関わることですから..。それにも関わらず父親はオーダーの際に気を配ることもなく、いかにユキに任せきりだったかがうかがえます。天国のユキがこの場面を見ていたら、不慮の事故で突然亡くなったしまった自分を責めてしまったかもしれませんね。
幸夫は、大宮家に関わるようになり、かつて経験したことのない子どもの世話や家事を経験し、予想外に自分の居場所や存在価値を見出す。
もしも、夏子との間に子どもをもうけていたら、彼の人生はもっと輝いていたのかもと、思ったり思わなかったり。結局は失ってはじめて気づいたということなのだと思いますが...。
こんなふうに、アナザーストーリーを自分で想像し、物語をさらに楽しませていただくことができました。とても心に残る作品でした。