劇場公開日 2016年10月14日

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「泣けなかった」永い言い訳 独りよがりさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0泣けなかった

2016年11月3日
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鑑賞方法:映画館

原作読んでから観にいったせいか、ただでさえ涙腺緩い私なのだが、何故か泣けなかった。確かにうるっとはきたけど、その程度。

幸夫くんのダメ男ぶりがあまりに強烈過ぎたためなんですかね。あるいは、真平くんと灯ちゃんがあまりに初々しく、眩しすぎたからなのか。ダメ男が亡くなった奥さんとどう向き合っていくのかというか物語の中核が、結果として、薄れてしまったようにも思いました。

小説とは違い、映画じゃ内心の描写どうするんだろうと思っていたが、結果として、幸夫くんが奥さんに感じた想いの変化はよく伝わらなかったのかもしれない。幸夫くんの内省を真平くんとの会話で語らせたり、奥さんの写真を持ってきて語らせたり、工夫はしているけれど、ダメ男ぶりとか子供たちの可愛さとかが勝ってしまい、そうした目論見は外れた感がある。ただ、妙に一人語りとか、想い出フラッシュバックとかの手法でお涙頂戴にしなかったのは、西川監督の潔さのようには思う。映像前提ではなく、先に原作書いていたわけで、監督本人も主人公の心の変化をどう演出するのか、その難しさは分かっていた筈だから。

泣けなかったからと言って、これがつまらない映画かというと、全然そうではありません。ヨーロッパ系映画の小作品を見ている感じ。自意識過剰の男がようやく他者に向き合うことになる物語。小説ほどのカタルシス感はないけれど、映像としては非常にこじんまりとした幸せ感を出していることにとても成功している。観客たちは映画見終わったら、なんとなく気持ちが暖かくなってることを発見するんじゃないかな。

とここまで書いて、ようやく気づいた。小説と映画は狙いは違ったのかも。映像化にあたり、主人公の愛情と悔恨の入り混じった涙は諦めたのかもしれない。それより、もっと生きるということへの前向き感、他者を初めて自分の中に見つけた幸福感を出すことに、敢えて変えたのかもしれない。

西川監督の映画は、揺れる、夢売るふたり、の3つ目だけれども、今回は小説と映画の絡め手にはまったのかもね。それぞれのメディアとしての特性を活かし、一緒のようで微妙に異なる作品に仕立て上げた、小説家兼映画監督にあっぱれでありました。

独りよがり