ミラクル・ニール! : 映画評論・批評
2016年3月22日更新
2016年4月2日よりシネクイント、新宿バルト9ほかにてロードショー
伝説的なコメディ俳優が揃い踏みした、かつてない偉大な珍作
一言で、しょーもない映画だ。でも独特の愛らしさにあふれ、どこか放っておけない気にさせる。何よりもこの緩さあってこそ、サイモン・ペッグ、ロビン・ウィリアムズ、そして60年代に誕生した伝説的コメディ集団“モンティ・パイソン”という前代未聞の顔合わせが実現したのだ。これはちょっとした事件と言っていい。
ストーリーは唐突に始まる。70年代に打ち上げられた探査機がついに宇宙人の元に届き、彼らはメッセージとして搭載された男女の裸の絵を見てゲラゲラと大爆笑。これはとんだ下等生物からの贈り物だと判断し、ただちに地球の破壊を決めてしまう。だがその前に最後のチャンスを与えよう。無作為に抽出した人間に全知全能のパワーを授け、その様子を天上からつぶさに観察しようというのだ。
そんな経緯で突如パワーを手にするのが学校教師のニール(ペッグ)である。右往左往した挙句、いたずらに「愛犬よ、しゃべれ!」と願うと本当に喋りだす始末。この犬の声をロビン・ウィリアムズが担当しており、観る側は彼の一言一言に笑わせられつつも、これが正真正銘、ロビンとの最後の別れになることを考えると、一抹の寂しさすらこみ上げ……いや、感傷的になるのはよそう。これは底抜けに明るいコメディなのだから。ともあれ、地球の命運はニールと愛犬にかかっている。その重責もつゆ知らず、ああでもない、こうでもないと言いながらパワーの使い道に悩む二人の後ろ姿が、どことなく可愛らしい。
一方、宇宙人キャラに声を吹き込んだモンティ・パイソンも、今やみんな70代のおじいちゃん。メガホンを取ったテリー・ジョーンズ(彼もパイソンズの一員)によると、「メンバー全員が映画に集うのはこれで最後かも」とのこと。タブーを恐れず宗教論争まで巻き起こした往年の破天荒さはないにしろ、常識を思い切り俯瞰してみせる視点、努力すればするほど状況悪化を招くシュールな展開にはパイソンっぽさが感じられ、その最大瞬間風速に誰もがニヤリとしてしまうはず。
かくも様々な要素が入り乱れ、言い様によっては故人や宇宙人さえ招聘し、すっかり時空を超越してしまった感のある本作だ。まさに笑いは世界を救う。「しょーもない」どころか、映画史的にも類を見ない偉大な珍作と言うべきなのかもしれない。
(牛津厚信)