「黒沢清節が全開!」クリーピー 偽りの隣人 saikimujinさんの映画レビュー(感想・評価)
黒沢清節が全開!
クリーピーという何と直接的なタイトルだろうかと少し不安だったが、
黒沢清節が全開だった為、監督のファンの僕は楽しめた。
前半は特に黒沢清らしい表現が続く。
独特な照明使い。
例えば失踪事件で残された娘が大学で事件を語るシーンはワンカット長回しだが、照明がゆーっくり暗くなっていく。娘の語りが終わると照明が前の明るさに戻る。
他にも、高倉夫妻宅での食事シーンで、高倉と西野が隣の部屋に移動しコソコソ話すシーンは極端に暗い上に、西野の背後の壁には緑の光が反射していて不気味だ。
劇中の部屋内には緑の照明なんて無い。そこらへんの辻褄や、物理的ロジックは、映画表現の為に無視するのが黒沢清映画の特徴なので、そこに付いていけない人は黒沢清映画を楽しめないかもしれない。
その様な照明の強弱や、異様な光色を使うのは、不吉さを表現する黒沢清ならではの手法なのだ。
他にも、東出くん扮する若い刑事が空き家に侵入するシーンでは、懐中電灯の光のフリッカーが出てしまっている。これはカメラのシャッタースピードをその光に合わせ無いが故に出てしまう、いわば光の波の様なもので、映像制作の世界ではタブーだ。しかしこれも不吉さを表現する為にわざと利用している。
風表現。
黒沢清映画には「風」も表現方法としてよく用いられる。
風になびく草木の影が壁に反射したり、外から入る風でカーテンが揺れたり…
今回は特に草木が揺れる。風の音を効果音として明らかに足している。聴覚的にも不穏さを表現している。
そして車窓のスクリーンプロセス。
これはもはや黒沢清のトレードマーク!
今時グリーンバックを使わずにスクリーンプロセスを使うなんてと思うが、監督は過去作でもスクリーンプロセスを使っていて、その意図は、異様な雰囲気を出す為と答えている。
何度見ても笑ってしまうが。笑
特筆すべきはあの死体処理方法!
死体を真空パックにするなんて今まで観た事がなくて新鮮だった!
文字通り「真空パックで新鮮だった!」笑
これは原作にはなく、監督のオリジナルアイディアとの事。
話のプロットは正直「冷たい熱帯魚」にそっくりだ。
近所のおじさんが連続殺人犯で、
まずは主人公の嫁が取り込まれる。
冷たい熱帯魚にそっくり。
ラストで死んだ父に暴言を吐く娘、ってのも冷たい熱帯魚にそっくり。
死体処理方法をじっくり描くのもそっくり。
黒沢清の過去作にもそっくりだと思った。
他者を洗脳して、人を殺させるという設定は「cure」の殺人犯と全く同じ。
西野宅のビニールカーテンも「cure」に出てくる。
西野の死体の周りを枯葉が舞う所を俯瞰で見せるラストは、「贖罪」の第2話のラストと全く一緒。
西野がテレビでクラゲを見ているが、「アカルイミライ」ではクラゲが重要な役割を担う。監督はどうやらクラゲが好きらしい。
黒沢清監督の初期作品ほど過激な描写や恐ろしい表現はないが、黒沢清ファンなら楽しめる作品だと思う。