劇場公開日 2016年6月18日

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「自己責任、自己責任といって洗脳する恐怖」クリーピー 偽りの隣人 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)

4.5自己責任、自己責任といって洗脳する恐怖

2016年6月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

毎度毎度期待して鑑賞してはガッカリすることの多い黒沢清監督。
何度ガッカリしても、新作が公開されると次々と観に行ってしまう・・・
なんとも、はや、なんといっていいかわからないけれど。

大学で犯罪心理学を教える高倉幸一(西島秀俊)。
彼は元刑事で、刑事を辞めたのは一年前。
連続殺人犯の取り調べ中に、犯人が警察内部で人質をとって逃走し、その説得の最中に犯人に刺されてしまったのだった。

大学での教鞭を取り始めたと同時に、東京都下の一戸建てに引っ越し、妻(竹内結子)とふたり暮らしを始めることにした。
隣家2軒に挨拶に出かけると、両家ともそっけない対応。
特に、西野家の主の男(香川照之)は、若干人格障害ではないかとも思える行動だった・・・

というハナシに、6年前、東京都下の住宅街で起きた、未解決の一家三人失踪事件が絡んでくる。

タイトルの「クリーピー」は「不気味な」「気味の悪い」という意味で、映画全体が不穏な雰囲気に包まれている。
後から付けたサブタイトル「偽りの隣人」がほぼ映画の内容を暴露しているので、誰が事件の犯人か、隣家の男の正体は何か、というのは、ほぼほぼ読めてしまう。

しかし、この映画、抜群に面白かった。

西野家の男は不気味で異様なんだけれど、当初描かれる男の様子は、なんだこの程度ならフツーにいるじゃないかと思ってしまう。
静かな住宅地で、近所ともあまり付き合いがなく、休みの昼間にゆっくりしているときに呼び鈴を鳴らされれば、ま、不機嫌にはなるわなぁ、と。
たしかに、会話のやり取りなどは、うまくキャッチボールできていないので、ヘンだとは思うけれど。

で、この映画の面白は、そんな男がどんどん他人の心に入ってきて、支配下においていくところ。
支配するには、ある種のネタがあるのだけれど、そのような飴がないと、他人様を支配下におくことは難しい。
そして、ひとたび支配下に置いたならば、彼らの行動についての動機づけを「さも、彼ら自身が行った」と思わせる。
「自分に責任はない。やること(やったこと)すべては、お前たちの責任だ」と平然という。

これは「洗脳」にほかならないのだけれど、この「洗脳方法」の平然さと無責任な理論が怖い怖い、恐ろしい。

この洗脳方法、絵空事でないような感じがして怖かった。
すぐ、そこいらあたりにもありそうな感じ。

「やったことすべては、お前たちの責任」、この言葉、簡潔に言えば「自己責任」。

「オレがやっているのは、お前たちのためなんだよ」といいつつ、「結局、その責任はお前たち自身にあるのだよ」。
おぉぉ、怖い怖い。
いま、そこいらあたりで見受けられる情況と酷似してないか。

話は少し変わるが、この映画の中で描かれる「監禁」。
最近の映画では監禁が描かれることが多いように感じる。
昨年の『プリズナー』『特捜部Q 檻の中の女』、今年にはいって『ルーム』『シークレット・アイズ』『10クローバーフィールド・レーン』。
いずれも外国映画だけれど、とても気になる。

それぐらい、世間が閉ざされているということなのだろうか。

エンディングは一応ハッピーエンドだけれど、個人的にはハッピーエンドでなくてもよかったかもしれない。
(もう少し前で、終わってもよかった)
そうすれば、さらにさらに、不穏で不気味で、最高に後味の悪い映画になったと思われるのだが。

りゃんひさ