「外連を捨てて王道をいく紀里谷監督最新作。」ラスト・ナイツ lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
外連を捨てて王道をいく紀里谷監督最新作。
酷評に塗れた初作『CASSHERN』の、空気を読まない外連と壮絶な異物感に感動した身としては、些か物足りないくらいに真っ当な仕上がりだった。海外スタッフらとの協働で、前2作ほどワンマンな創り方にはならなかったのかもしれない。その意味では誰もが楽しく観られる映画になっていると思う。
それでもこれを扱き下ろすなら、世の映画のほとんどは糞だ。まあ、大量の糞の中にひと握りの本物があるというのもひとつの見識だろうし、気持ちは解る。あるいは同監督の過去作や本人のキャラに反感を持っていて作品の粗探しをするなら、そりゃあいくらでも穴はあるだろう。そもそも完璧な映画ってなんだよとも思う。
本作の場合、序盤の見せ方が致命的にダサい。とにかく登場人物たちが物語の背景や主要人物の人間性や自らの心情についてペラペラとしゃべりまくる。いわゆる説明台詞のオンパレード、まさかの橋田壽賀子メソッドである。お陰でキャラクター理解に遊びがなく、一面的になってしまう。あと、忠臣蔵でいえば四十七士にあたる騎士たちの描き方が雑で、ドラマを盛り上げるはずの変心や犠牲のエピソードがまったく生きてこない。
この辺りは脚本家の意向なのか監督の判断なのかよくわからない。中盤のタメから一気に畳み掛けるクライマックスあたりまでの演出は良かっただっただけに、なんとももったいない。もっと個々人の内面を多面的に描くことに序盤の時間を割いていれば、俳優陣の好演も手伝って、より大きなカタルシスに繋がっただろうに。
これはこれで海外進出第一作目として悪くはないのかもしれない。ただ、個人的にはもう少し「らしさ」を見せて欲しかったなと。手堅さや器用さを手に入れても、作家性を手放すことはないと思う。監督としての手腕を売る仕事もいいけれど、もっとガッツリ紀里谷印の仕事も観たい。次回作以降に期待かな。