「なにげに、原作ファンだったりする」蜜のあわれ Jolandaさんの映画レビュー(感想・評価)
なにげに、原作ファンだったりする
と、言っても、読んだのつい最近なんですけどね。昔、衛星で映画をチラ見して気になって、去年の秋に借りて観て、今月、「青空文庫」(著作権が切れた又は許可の下りた作品を、有志の方々がネットに直に打ち込んだもの)で原作を読み、また観直したという寸法。否、遠回り(笑)
シュールレアリスム文学という名称を初めて知りました(このサイトのあらすじ読んで)。
原作は会話のみで「地の文」無し、ト書きの無い戯曲みたいなもので、最初はまごつきました。でも、老いや人生、男と女、金魚や他の生き物やについて縦横無尽に、ざっくばらんに語り合う作家と金魚は魅力的で、そのやり取りはなかなかに哲学的。妙な含蓄があったり、名言めいた台詞も多く、読み終わった時はちょっと寂しかったです。
原作を読んでから映画を観ると、よくもまぁアレを映画化する気になったナァ、と(もちろん良い意味で)思います。
原作は会話が主体であってドラマ的展開に乏しいので、そこんとこ苦労したと思います。金魚(赤子)でも幽霊(ゆり子)でもない、第三の女(たぶん作家志望の女の子)を出してくるのも、無理はない。
原作の作家先生はだいぶ枯れてます。昔は多少の色恋はあったし今でも女の人は好きだけど、もう年だからさぁ、、というスタンス。「子供がほしい=他の金魚と交尾してくる!」という赤子に、ことさら反対もしません。
性別や年齢や種族の壁を越えてしまった二人の、なんだかちょっと親友みたいな雰囲気、好きなんですけどね。ただ、そのままではドラマがないから(笑) 映画では妬いて妬かれて、けっこうな愛憎が繰り広げられます。赤子はゆり子とすっかり仲良くなるし、作家が芥川龍之介(!)(高良健吾)の幽霊と邂逅する一幕も。
ちなみに、原作には室生犀星本人による「あとがき」も付いていた。これには本編以上に、まごついた(笑) しかし、非常に面白い読書体験だったので、室生犀星はもちろん、出合わせてくれたこの映画にも感謝。