「統御できる人の想像力」蜜のあわれ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
統御できる人の想像力
文学者ではなくとも、人間は自分に都合の良い存在をその妄想の中で飼っていることがある。たいていの場合、想像の中の存在は、その創造の主の意のままに作り上げるられる。
映画に出てくる金魚も幽霊も、大杉漣が演じる室生犀星の想像の世界に存在する。だから、二階堂ふみも真木よう子も犀星によって好きに想像されればいいのだ。
ところが、頭の良い人、想像力の豊かな人にとっては、たとえ想像上の存在でも、いったん完成した存在となるや想像主のコントロールの利かない自立した存在となってしまう。
いや、頭の悪い私のようなものでも、そのような妄想の産物をどうしたいのか分からなくなり、すっかり自分自身が振り回されている場合もある。
ここでの金魚は作家の夢想であり、幽霊は回想であろう。
自分が作り出したはずの夢想や回想が、自分に残された時間内には回収しきれないことが分かった老境の作家を大杉が見事に演じている。
そして、映画を観た者の誰もが思うであろう。二階堂以外にこの金魚を演じられる当世の女優はいない。
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