「実務の人」オデッセイ 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
実務の人
主役の人が、ずっと作業してるなあと思った。
土作ったり、芋植えたり、ソーラーパネルの砂を取り除いたり。
たった一人で「寂しいなあ」「恐いなあ」と怯えるんじゃなくて、ひたすら芋の数かぞえている。
今後、生き延びるために必要な作業だから。
今、出来る事を粛々と。
主役の人だけでなく、地球の人たちも、徹夜で機材作ったり軌道を計算したりモニター観察したり、ずっと作業してる。そういう作業する人の表情がすごくイイ。みんなオタクだけど実務家の顔をしてる。
火星からの生還は奇跡的なことかもしれないが、奇跡はただ祈るだけじゃ起きない。
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映画後半、重さのジャマになる機材をどんどん捨てていくシーンも良かった。
生き抜くために、計画して準備して作業する。それも大事だけれども、時には捨てなきゃいけないこともあるんだなあと。
ちょっと意味合いが違うかもしれんが「起きて半畳寝て一畳」という言葉が浮かんだ。生きるために必要なものって、実はそんなに多くないのかもしれない。
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原作もすこぶる面白かった。SFでありながらお茶目なユーモアもあって(原作の「おっぱい」のあたりは最高だなあ)。
映画を観る前は、リドリー監督との相性ってどうなのかあと思ってた。お茶目なユーモアとはちょっと違う監督さんのような気もしてたんで(いや『ハンニバル』とかはユーモアのりのりで撮ってるかもしれんが、あれはまた別のブラック・ユーモアだからなあ)。他のレビュアーさんもお書きになっているが、軽妙な語り口はもしかしたら別の監督さんの方が良かったのかもしれない。
でも、映画を観て、ああ、これはリドリー・スコットにピッタリの話だったんだなあと。
宇宙を大仰で雲を掴むような曖昧さにくるむのではなく。
火星で芋を作れるか、生きていけるか…理論を組み立て実証していく。
こんな話は不可知論者でリアリストのリドリーならではだろう。例えば前作『エクソダス』で十の災いを単なる自然現象として描き、科学的にみれば奇跡でもなんでもないでしょと笑ったユーモアと同一線上にあるなあと。
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追記:船外でハーネスがぐるぐる絡まるシーンがホント美しかったなあ。あそこは美しさよりも臨場感を優先した方が良かったのかもしれないが。どうしても美しくなってしまうのが、ビジュアリストのリドリーならではだなあと思った。