劇場公開日 2016年11月12日

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「当たり前に生きていることが奇跡であることを思い知る」この世界の片隅に めいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5当たり前に生きていることが奇跡であることを思い知る

2017年4月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

 戦時中の昭和18年広島に住むすずは、幼い頃出会った周作から求婚を受け、軍港のある呉へと嫁ぐ。縁もゆかりもない土地で、すずは美しい街の光景の中、自分の居場所を見つけていくが、やがて戦火が街を変えていく。

 映画は大体三部構成になっていて、すずの幼少期から嫁に行くまでは、ただひたすら美しい故郷の風景や幻想的な出来事が描かれ、呉へ嫁いでから一年の間は、周作との夫婦生活や家族関係の絆・美しい呉の街並みについて語られ、そして最後に戦争の理不尽さが美しい世界を奪っていく過程を描く。
 前半は情景描写がただひたすら瑞瑞しい美に溢れていて、主人公すずを取り巻く世界が如何に美しく、優しい時間であることを見せる。戦争が始まり、食糧難になっていっても、本で読んだ調理法を実践したり、純真に創意工夫で乗り切ろうとするすずの生活には、楽しさがあって、彼女は自分らしく生きようとする。
 しかし、昭和19年後半から呉の街は空襲に見舞われ、人々とすずの生活を変えていく。それでもあくまで生来の明るさと純粋さを失わず生きていくすずを、周りの人々は温かく見守るが、戦況が激しくなり、物語の後半、すずは絶望的な喪失を味わうことになる…。
 主人公すずはのんびり屋で「抜けている」と周りから言われて育つけれど、その生来の純粋さを通して見た彼女の世界は、本当に優しく温かさに満ちていて、過酷な現実があっても、いつも彼女の世界は美しい輝きに溢れている。そして、やがて広島を襲う悲劇を知っている鑑賞者は、その美しさに胸が締め付けられるのだ。

 「この世界の片隅に」は、面白い作品に出会った感動とはちょっと違って、見終えた時、素敵な人と友人になれたような喜びがある。すずさんという主人公に出会って、海の波がうさぎに見えること、すみれの花がお味噌汁になること…世界が瑞瑞しい美しさに溢れている事を、すずさんに教えてもらった気分…。
 活気のある広島の町があって、豊穣な海があって、呉の軍港があって、街の灯りと人々がいて、その中ですずさんという一人の女の子が生きていたということ。一人の普通の女の子が、戦時中という状況で普通に生きていこうとしたこと。当たり前のすずさんの毎日がある奇跡が美しいのだと。
 私も泣いてしまったクチなのだけれど、それは戦争の悲惨さに泣いたんじゃなくて、それは、すずさんの世界が瑞瑞しくてきらきら輝いていたから。世界の優しい美しさに、涙を溢したのだ。
 私は時々、当たり前に生きていることが当たり前じゃないことを忘れそうになる。だからたぶん、やっぱりまた観に行くだろう。当たり前に生きていることが奇跡であることを思い知るために。

 主人公役の能年ちゃん(のん)が好きなので、半分位彼女目当てで行ったんだけど、彼女の演技が神憑り的に素晴らしく、おっとりとした主人公すずの純粋さは、彼女でなければ演じられなかったと思うくらいハマり役だった…。本当に、こんな美しい世界を見せてくれてありがとう…って言いたい映画だった。

追記。素晴らしかったので、映画を観た直後、原作の漫画三巻も読みました。原作でのすずさんの苦悩はアニメより深く…特に映画では省かれてしまった、すずさんの分身とも言えるりんさんのエピソードや、終戦直後の彼女の言葉は、この映画を観て感動した人は、是非とも読むべきものだと感じました。尺の関係で映画では省かれてしまった原作の箇所は、それほど重要なものでした。もし映画でこの作品に惹かれた方が居れば、原作で描かれているりんさんの境遇と、すずさんの苦悩を知ってほしいと思うので、原作漫画をお薦めします。

めい
めいさんのコメント
2017年4月5日

>琥珀さん
コメントありがとうございます。私も気になっていた作品ですので、早速鑑賞してみようと思います。おすすめいただき、ありがとうございます。

めい
グレシャムの法則さんのコメント
2017年4月4日

『夕凪の街 桜の国』も読まれましたでしょうか?もしまだでしたら、こちらの原作と実写映画も是非手にとってみて下さい。
私の場合、魔女の宅急便や紅の豚あたりで宮崎駿監督を初体験した後に、カリオストロやナウシカやトトロを観て、こんな凄いものがあったのか⁉︎と衝撃を受けたのを追体験したかのようなインパクトがありました。
めいさんのような豊かな感受性をお持ちの方の感想も是非お聞きしたいと思い、不躾ながら、コメントさせていただきました。

グレシャムの法則