劇場公開日 2016年11月12日

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「地味ですごい(?)作品」この世界の片隅に ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5地味ですごい(?)作品

2017年2月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

幸せ

萌える

こんなに地味ですごい映画はないし、文句なく新しい。描かれているのは、本当に何気ない数十年前の日本の日常生活であり、そこに戦争の暴力と狂気が割り込んでくる。主人公すずの存在がこの作品のトーンを決めている。ちょっとボーっとしたところがあり、広島弁をのんびり話すところが愛らしくてたまらない。裁縫や料理、畑仕事など当たり前の日常が、彼女にかかると美しく愛おしい営みに変わる。当時の情景・風俗を忠実に再現したとのことだが、その緻密さとあふれる詩情には感心するばかりである。
どんどん生活は窮乏し、楽しみもなくなっていく中でも、人々は人間味を失わず逞しく毎日生きている。いつもぼんやりしているすずが、憲兵にスパイと疑われてみんなに大笑いされる場面などはほっとさせる。普通の生活が一番大事で幸せなんだと感じるとともに、大切なもの(人)を奪っていく戦争の理不尽さに静かな憤りがわいてくる。
徹底的にディテールにこだわり、ものと人に愛を詰め込んだ静かな名作です。

ガバチョ