「フランスの独自性とは」最高の花婿 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
フランスの独自性とは
このコメディ作品が生み出す笑いは、民族、信仰の違いに対する攻撃と反撃、そして、花嫁たちの父である主人公クロードの悪態によるものだ。
ユダヤ教徒とイスラム教徒の花婿が登場する。彼らは当然ぶつかり合うものの、信仰的には近いものがあるせいか中国人の花婿よりも仲が良かったりする。ユダヤ人なのに事業がうまくいってないなど、各民族、各宗教のステレオタイプとステレオタイプを逆手にとった笑いなど、面白いポイントが多いのがいい。
差別的であることと、そうでないことのギリギリのバランスが笑えるんだな。
そのバランスを象徴するように、クロードは自分をド・ゴール主義だと言う。
ド・ゴール主義とは、外国の影響力を受けず国の独自性を追求するというのもだ。捉えようによっては保守的で差別的だと見ることもできるし、もちろんそうではないとも言える。
AとBの選択肢の中でAを選んだとして、それは単に好みの問題だ。しかしもしAが白人でBがアフリカ系だった場合、選択する人間が白人であったなら、その人は急にレイシストになってしまうのか?そんなわけない。
しかし、見る人によっては、場合によっては、レイシストのそしりを受けても仕方ない。そんなギリギリ感のあるバランスが「ド・ゴール主義」なのだ。
本作の場合は、主人公クロードに選択する余地も権利もない。他民族、他宗教の相手を選んだのは娘たちだ。
クロードはただ、娘の結婚相手は自分と同じ白人のカトリック教徒がいいなと願っているだけだ。
そしてその想いは終盤に登場する花婿の父親と同じであったことが最大の笑いどころ。「私もド・ゴール主義だ」と言い合ってからの意気投合ぶりは最高に笑えるし、最もいがみ合う可能性のあった二人が同士であったことが思わぬハートフルさを生み出す。
ド・ゴール主義の重要な部分「フランスの独自性」を現代的に解釈するならば、本作のように「全てを受け入れる度量」なのかもしれない。もちろんフランスらしく皮肉めいたブラックジョークをスパイスに。