劇場公開日 2016年7月9日

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カンパイ!世界が恋する日本酒 : インタビュー

2016年7月19日更新
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“日本初”の外国人杜氏、映画出演で日本酒への熱き思いを再確認

映画ジャーナリストの小西未来氏が監督し、日本酒の魅力に迫った長編ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」が、海外映画祭での上映を経て、7月9日から日本公開される。京都府・久美浜町の「木下酒造」で、外国人として日本初の“酒作りの最高責任者”である杜氏(とうじ)を務めており、同作に出演したフィリップ・ハーパー氏に、映画の魅力を聞いた。(取材・文・写真/編集部)

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映画は、ハーパー氏、神奈川県・鎌倉市在住の米ジャーナリストで“日本酒伝道師”として注目されるジョン・ゴントナー氏、岩手県の老舗酒造「南部美人」5代目蔵元の久慈浩介氏の3人に密着。それぞれに歩んできた背景や立場の異なる“日本酒のプロフェッショナル”3人の挑戦や苦悩を、関係者のインタビュー等を交えてひも解いていく。

66年に英国で生まれたハーパー氏は、オックスフォード大学卒業後、日本の英語教師派遣のJETプログラムで88年に来日。滞在中に日本酒の魅力に気づき、業界入りを目指したという。10数年の酒造経験を積んだのち、独自の視点で「玉川自然仕込山廃純米」「玉川 Time Machine」といった新たなブランドを次々と生み出し、ファンを獲得し続けている。

劇中では過酷な下積み時代についても言及しているが、来日当時を振り返ったハーパー氏は「日本に興味があったから来たわけじゃなく、とりあえず海外で暮らしてみたい、色々な言葉と接してみたいということしかなかった。頭空っぽの20代だから(できた)。ちゃんと考えていれば(日本酒業界に入ろうなんて)やらない」とほほ笑む。

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普段、映像系メディアの取材は極力避けているが、参加を固辞しても決して諦めなかったという小西監督の熱意に押される形で本作の出演を決意した。「小西さんが口説き上手だった。メールをいただいて1度断ったのですが、またメールが来て『ご挨拶だけでも』と。東京からうちの蔵まで来てもらうだけでも4時間くらいかかる。そうやって断りにくくしていったんですね。時間もお金もかかっているわけですから思いが伝わりましたし、逃げ切れなかった」と冗談交じりに振り返りつつ「本作で得た最大の収穫は、小西さんと知り合えたこと。日本酒を知ってもらおうとすることは仕事の一部だと思っていますので、本作に参加させてもらったことが、そういう(日本酒の認知を広げる)働きをしてくれるんだったらうれしい」と期待を寄せた。

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杜氏としての業務だけでなく、英国人という利点を生かして外国人向けの専門書を手がけ、最近では「灘酒研究会」が100周年を記念してインターネット上で無料公開した「改訂 灘の酒用語集」抜粋版の英訳を担当するなど、日本酒の魅力を世界に発信し続けている。劇中でも、各国で清酒(日本酒)作りに励む外国人が多数登場するが「世界でも、日本酒を仕事にしている方が増えてきている。海外でも酒蔵を作っている方は増えていますし、完全に新しい時代の入り口だと思いますね。色々な国で、清酒を作ろうとしている個人と企業が増えつつある時代ですから、今までと違う世の中になってくると思います」と清酒の将来について言及した。

その言葉は、プロの視点から見て、海外で清酒を作るハードルの高さについても十分に理解しているからこそ。「日本の水の中では(兵庫県の)灘の水が硬水なんですが、世界標準で見ると灘の水は軟水なんですよ。アメリカなどで造り酒屋を立ち上げているところは、そういった技術的なハードルから取り掛からないといけない。米の質が違ったりとか色々な部分があるから難しい」としつつ「清酒が日本のものだけじゃなくて、世界のものになっていく」と目を細める。

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「僕の1番の存在価値は、酒を作って喜んでもらうこと」と杜氏としての矜持(きょうじ)を明かしたハーパー氏は「日本酒を知っている人が見ると面白いところもあると思いますが、どちらかといえば日本酒を今まで考えたことも接したこともない方に見てもらって『オモロイな』と思ってもらって、日本酒に触れるきっかけになることを期待しています」と結んだ。

インタビュー2 ~小西未来監督が語る、日本酒の奥深さと記者経験を生かした映画作りのだいご味

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